かつて、フィリピンのレディーボーイ(バクラ)は美的な評価において、タイのレディーボーイに比べて「劣る」といわれていた。
それもしかたがなかったかもしれない。タイは、長年にわたってレディーボーイ文化の中心として確立されていた歴史がある。整形技術や美容サポートも発展していたため、タイは世界中のトランスジェンダーからも注目されてきた。
さらに、タイの観光業が成長する中で、レディーボーイの存在も文化的な観光資源として認知され、一定の社会的地位も形成された。こうしたタイ独自の文化背景により、レディーボーイが美的基準の高さを追求できる環境が整っていたのだ。
一方、フィリピンにおけるレディーボーイ文化は、こうした社会的な認知が遅れていた側面がある。フィリピンは、キリスト教の国だ。宗教や文化的背景の影響もあり、レディーボーイが認められるまでには多くの葛藤があった。
また、近年にいたるまで、レディーボーイに対する社会的な偏見が根強く、職業や教育の場での差別も強かった。さらにいえば、貧困でトランスジェンダーの人々も美容どころではなかったのだ。
しかし、ここ数年の変化は顕著だ。フィリピンの歓楽街にくわしい男たちによると、この国のレディーボーイたちも、いよいよタイの美しさに対抗できる存在として評価されるようになってきているというのだ。
たしかにフィリピンの貧困はまだ深刻であり、美容に手が届かないトランスジェンダーも多いのだが、インターネットの普及によって「情報」は着実に彼らにも届くようになってきた。
どういう情報なのかというと、メイク技術や、安価に美しくなるためのテクニックの情報である。ほとんどの男は知らないが、メイクというのは「高度なテクニックを要する技術」なのだ。素人が何の知識もなくメイクしてもうまくいかない。
何をどうすればいいのか、習得が必要なのだ。それが、インターネットによって無料で手に入れることができるようになった。フィリピンのトランスジェンダーたちの美的能力を向上させているのは、そういった背景がある。