日本でも「カネがない」という理由で貧困層が医療を受けられない光景が現れる

日本でも「カネがない」という理由で貧困層が医療を受けられない光景が現れる

日本では非正規雇用の貧困が深刻になっているのだが、彼らもまた生活不安から精神的に深刻な状況になりやすい。また、多少の体調の悪化も治療せずに無理するので、よけいに病状がひどくなってしまう。貧困層が増えれば、深刻な状況になる人も増えていく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

カーラと同じような環境にいる女性も多い

シンガポールの歓楽街ゲイランに出入りしていたとき、私がつき合っていたスリランカ女性をひたすら嫌っていた仲間がいた。小説『背徳区、ゲイラン』では、カーラのモデルになった女性である。

私もカーラが好きではなかったのだが、あるとき彼女が祖国スリランカで赤ん坊を失っていたという話を聞いた。彼女は自分の赤ん坊を助けるために、村から夜中に山越えして朝一番に町の医者に連れていったのだが、赤ん坊は助からなかった。

自分のことしか考えないような身勝手な女性だったが、そんな女性にこのような過去があったことに私は衝撃を受けたのだった。

彼女は貧しい村の出身で、医療もろくに受けられない環境で育ち、そのときはシンガポールに出稼ぎにきてストリートで身体を売っていた。よく考えてみたら、彼女の環境は最悪だった。

今でも、途上国ではカーラと同じような環境にいる女性も多い。

貧困と医療の問題は、現代社会における主要な課題のひとつだ。社会的、経済的に弱い立場に置かれる人々は、必然的に医療を受けるのが難しくなり、健康状態の悪化や命にかかわるリスクにさらされやすくなる。

つねに進化を続ける医療技術や高度な医療施設が存在する一方で、経済的に困窮する層には十分なアクセスができない現実がある。この格差は、社会的な不平等をさらに助長し、将来的な健康格差の根本的な要因となり得る。

社会構造の中で貧困層が抱える困難は多岐にわたり、その中でも医療格差はもっとも深刻な問題だと私は思っている。

シンガポールの歓楽街ゲイランに出入りしていたとき、私がつき合っていたスリランカ女性をひたすら嫌っていた女性がいた。小説『背徳区、ゲイラン』では、カーラのモデルになった女性である。

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医療を受けられないことで、どん底に堕ちる

医療は健康な生活を支えるだけでなく、個人が社会的に活躍し、経済的な安定を確保するための基盤である。しかし、手軽に医者にかかれるというのは、当たり前のことではない。

インドのスラムにいったとき、耳の聞こえない女の子がいた。彼女は話すことができなかったが、彼女に補聴器があったら状況が変わっていたのではないかと思ったものだった。

しかし、電気もガスも水道すらも通っていないスラムに暮らす彼女に、補聴器なんか夢のまた夢だろう。補聴器の前に、彼女は耳鼻科さえも行けていないはずだ。障害を持った状態のまま社会に出るというのはとても厳しい。

彼女の人生を思って、私は暗い気持ちになったものだった。彼女については、『絶対貧困の光景』でも取り上げている。他にも、医療を受けられなかったことで、人生のどん底に堕ちていた女性を私は多く見てきている。

インドでもポリオが絶滅したという話だが、私が知っているムンバイの女の子は、その絶滅していたはずのポリオにかかって足を引きずりながら物乞いをしていた。数十円のワクチンを打てば、彼女は健常のままでいられたはずだった。

貧困層は教育の機会も限られており、健康リテラシーの低さから健康管理が適切に行えないことが多い。たとえば、糖尿病だが、現代では貧困層ほど糖尿病になりやすい。

フィリピンでも貧困層の糖尿病が問題になっているのは以前にも記事にした。(ブラックアジア:フィリピンの貧困層のあいだでも糖尿病が増えているが、その改善は非常に難しい

このような構造的な格差により、貧困が健康を害し、健康がさらに貧困を深刻化させるという悪循環が生まれている。

貧困層は教育の機会も限られており、健康リテラシーの低さから健康管理が適切に行えないことが多い。たとえば、糖尿病だが、現代では貧困層ほど糖尿病になりやすい。

地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから

アンダーグラウンドでもゆがみが見える

最近はHIVも薬で防げる。しかし、その薬は先進国の金持ちは買えても、貧困国の人たちは経済的に買うことができない。そのHIVがもっとも深刻なのは、途上国で貧困に苦しみながらセックスワークをしている女性たちである。

貧困と医療格差は、アンダーグラウンドでもゆがみを見せているのだ。

貧困が医療格差を生むというのは、各種の統計データによって裏づけられている。WHO(世界保健機関)の報告書によれば、世界の人口の半数以上が医療費の自己負担が理由で必要な医療サービスを受けられない状況にあると述べている。

特に開発途上国においてこの割合がさらに高く、アフリカや南アジアの一部の地域では、住民の80%が医療の恩恵を受けられない。これらの地域では、感染症や母子保健にかかわる医療サービスが非常に不足しており、人口の健康状態は極めて悪い。

一方、先進国においても医療アクセスには格差が存在している。

たとえば、アメリカではアラスカ先住民系の31.6%が医療保険未加入であり、ヒスパニック系も31.5%が無保険である。

アメリカでは医療費の負担が高く、2019年のデータによれば、4人に1人が医療費の負担で生活費の支払いを困難に感じていることがわかっている。アメリカが先進国なのに寿命が短いのは、まさに医療格差の結果なのだ。

日本においても、貧困層の健康リスクは増加傾向にある。厚生労働省のデータによれば、生活保護を受給している世帯の健康状態は一般世帯に比べて悪く、特に高齢者の割合が高い世帯では糖尿病の発症率も高い。

また、日本は国民皆保険制度が整備されているが、制度を利用する上での自己負担分がネックとなり、低所得者層には医療費の負担が重くのしかかっている。これにより、受診控えが発生し、症状が悪化してから治療を受けるケースが増加している。

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貧困と医療の問題は今後さらに悪化する

低所得者になればなるほど、メンタルヘルスに深刻な影響を受ける。世界中で貧困層における精神疾患の発症率が高いことが確認されている。貧困状態が長引くことで、うつ病や不安障害が悪化する。

特に医療アクセスが制限されている地域では、精神科治療を受けることが難しく、適切なサポートを得られない。こうした背景から、貧困層に対する医療支援が不可欠であることが、データからも明確に示されている。

日本では非正規雇用の貧困が深刻になっているのだが、彼らもまた生活不安から精神的に深刻な状況になりやすい。また、多少の体調の悪化も治療せずに無理するので、よけいに病状がひどくなってしまう。

非正規雇用や低賃金労働に従事する人たちは、ほぼ日雇いなので、休んだら賃金がもらえない。病気にかかってもゆっくり休める環境ではない。休んだら収入が途絶えるので、働くしかない。

それで、どんなに体調が悪くても無理するのだが、無理すればするだけ病気が悪化する。単に病気が悪化するだけでない。慢性的な疲労やストレスは、免疫系を弱め、さらなる病気のリスクを高めることにもなる。

適切な休養や治療を受けていれば早期に回復できたはずの症状が長引き、重症化すれば、収入が完全に途絶えて、生きるか死ぬかのレベルの貧困に陥るリスクが高まる。

日本はもう政治の無能で凋落から逃れることができず、貧困はもっと深刻化していくことになる。だから、貧困と医療の問題は今後さらに悪化するのは間違いない。

医療を受けられないで病状を悪化させて苦しんできた人たちを、私は東南アジアや南アジアのスラムで見てきた。

インドのムンシガンジやボウバザールのスラムでは、それこそエイズで痩せ細った女性がベッドで死を待つ部屋があった。その隣でセックスワークがおこなわれていたのだ。スラムでは治療できないで病気を放置していた人だらけだった。

日本も、国保料の値上げ、滞納の増加、無保険者の増加で、医療は危機に瀕していく。保険制度が瓦解したら、「カネがない」という理由で貧困層が医療を受けることすらもできない光景が現れる。

低所得者になればなるほど、メンタルヘルスに深刻な影響を受ける。世界中で貧困層における精神疾患の発症率が高いことが確認されている。貧困状態が長引くことで、うつ病や不安障害が悪化する。

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