現代社会では、もうハイパーフォーカス型の偉人は出てこないような予感がする

現代社会では、もうハイパーフォーカス型の偉人は出てこないような予感がする

人類の足跡に大きな成果が残せるのであれば、ハイパーフォーカス(過度な集中)を持てるのはうらやましいと考える人もいるかもしれない。しかし、彼らの集中力は普通の人とは違っている。普通の人が彼らと同じような集中力を持とうと思っても不可能だと思う。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

業績のために全精力が費やされた結果……

過度に集中し、没頭し、すべての時間をそこに費やすタイプの人がいる。ハイパーフォーカス(過度な集中)を持っている人たちだ。こうしたハイパーフォーカス型が、社会を変えてきた。

実際、天才と称される歴史的人物、たとえばトーマス・エジソンやニコラ・テスラ、アイザック・ニュートン、エルンスト・ヘミングウェイなどはハイパーフォーカス型であり、現代文明は彼らの成果の上に存在している。

しかし、もうハイパーフォーカス型の偉人は出てこないような予感がする。もともとハイパーフォーカス型は希有な存在なのだが、現代社会はその希有な存在すらも集中力を奪う社会だからだ。

これらの人物は人並み外れた集中力で業績を残したが、その集中力は通常の人間の集中力を超えたものがあったのは今でもよく知られている。

エジソンは一度集中すると他のことをいっさい気にせず、日夜かまわず実験に没頭した。彼の生活スタイルは規則的でなく、周囲から「極端な偏執的探求心」と批判されたこともあった。

この極度の集中力が、電球や蓄音機などの発明を生み出したのだが、それは家庭生活や同僚との関係を犠牲にしたものだった。このようなハイパーフォーカスを発揮する人間は、しばしば「自己中心的」あるいは「異常」と捉えられるのだが、エジソンもそれに当てはまった。

一方の、テスラのハイパーフォーカスも、さらなる極限に達していた。彼は睡眠時間を削り、極端な作業リズムで生活していた。

テスラは生涯に渡り電磁波や交流電力の研究に没頭したが、そのために経済的困窮や精神的苦悩を味わうこととなった。彼の集中力はまさに「犠牲」を強いられるもので、結果として彼の人生は波乱に満ちていた。

晩年は数々の借金を抱えながら、ホテルの支払いを先送りにすることで日々をしのぎ、最後はそのホテルでひっそりと亡くなっている。

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周囲から「偏屈で頑固」と見なされていた

ニュートンもまたハイパーフォーカスの申し子といえる存在であり、彼の数学と物理の分野における功績は、周囲を驚嘆させた。しかし、その集中力は非常に偏った性質を持ち、しばしば人間関係を壊す要因となった。

ニュートンは実験に没頭するあまり、社交生活や人づき合いには無関心であり、結果として孤立することが多かった。自己の理論や発見を徹底的に追求すること以外には関心を示さなかったので、周囲から「偏屈で頑固」と見なされていたのだった。

このようなハイパーフォーカスの気質は一部の人に見られるものだが、彼らがどれほどの成果を成し遂げても、それが彼らにとって本当に幸福であったかどうかは議論の余地がある。

ヘミングウェイの文学における集中も特異だ。彼は作品執筆においては「瞬間に生きる」と語るほどの集中力を発揮した。しかし、孤独でストイックなハイパーフォーカスは彼の精神状態に負担をかけた。

数々の戦地取材や事故、冒険によるケガなどがヘミングウェイの身体をむしばみ、晩年には糖尿病や肝臓疾患、視力の低下にも苦しんでいた。また、頻繁にうつやパラノイアに襲われるようになり、アルコール依存もあって最後は自ら命を絶った。

ヘミングウェイは世界中で評価されているが、その人生にはハイパーフォーカスがもたらした悪影響が如実に表れている。ハイパーフォーカスは、たしかに創造性を引き出す。しかし、その一方で精神面や生活に大きな影響を及ぼすことになるのだ。

彼らの業績は、常人では成し遂げられないような過度の集中の結果として、そこにある。しかし、それが家庭生活を壊し、人間関係を壊し、身体を壊し、孤独感や疎外感が積み重なって精神をも壊していく。

しかし、それがわかっていても彼らはとめられなかったのだ。

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長い目で見ると健康に悪影響を及ぼすリスク

過度な集中が脳に与える影響について、多くの研究が進められている。

特に、集中力を必要とする職業や作業での労働者を対象にした調査によると、ハイパーフォーカス状態にあると、脳は通常の2倍以上のエネルギーを消費することがあきらかになっている。

脳が極度に集中している際には、前頭前皮質と呼ばれる部位が活発に機能し、意思決定や問題解決の処理が迅速におこなわれる。しかし、この状態が長時間続くと、脳への過度な負荷がかかり、疲労が蓄積される。

たとえば、ニュートンが重力の法則を発見する過程では、徹夜で思考に集中し、通常の生活サイクルを無視して没頭していたという記録がある。テスラは1日2時間しか睡眠を取らず、残りの時間を研究に費やした。

このようなハイパーフォーカスは睡眠不足や脳の機能低下をもたらし、記憶力や判断力が一時的に低下するリスクもある。

たしかに、休憩もなく1日に8時間以上も集中力を必要とする作業を続けていたら、どう考えても身体を壊してしまうのは当然だ。加えて、睡眠時間が少ない状態での集中作業は、うつ病や不安障害のリスクを上げる。

ヘミングウェイが執筆に集中するために飲酒を多用したことや、エジソンが実験の合間に短時間の仮眠で済ませていたことは、集中による一時的な成功を優先するために長期的な健康が犠牲にされた例である。

ハイパーフォーカスは短期間で成果を上げる可能性を持ちながらも、脳や体に負荷をかけ、長い目で見ると健康に悪影響を及ぼすリスクが伴う。

ヘミングウェイが執筆に集中するために飲酒を多用したことや、エジソンが実験の合間に短時間の仮眠で済ませていたことは、集中による一時的な成功を優先するために長期的な健康が犠牲にされた例である。

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一種の「トランス状態」に近いものであった

ハイパーフォーカスがどのように人のパフォーマンスに影響を与えるのか、より深く掘り下げていくと、彼らの集中力は「一般的な集中」とは異なる性質が見えてくる。

エジソンやテスラのような偉人たちは、他人には真似できない集中力を発揮するが、それは一種の「トランス状態」に近いものであったのではないか。これは脳の特定の領域が極端に活動し、外部の刺激をほとんど遮断してしまう状態だ。

そのため、ハイパーフォーカスの状態に入ると、彼らは目の前の作業以外のすべてを忘れてしまう。ヘミングウェイも、執筆中には他人との会話も絶ち、孤独な環境でしか集中できないと語っていた。

このような自己犠牲的な集中力は、創造性の発揮においては役立つが、執筆のために家族や友人との交流を避け、孤独に作業することで創作活動が深まる一方、精神的には次第に消耗してヘミングウェイを追いつめた。

ハイパーフォーカスは、特定の成果を上げるには役立つ。しかし、長期的な健康や幸福を考えると、やはり問題は大きいようにも思える。

それでも、人類の足跡に大きな成果が残せるのであれば、ハイパーフォーカスを持てるのはうらやましいと考える人もいるかもしれない。しかし、彼らの集中力は普通の人の集中力とは違っており、普通の人が彼らと同じような集中力を持とうと思っても不可能だと思う。

まして現代人は、ハイパーフォーカスはおろか、通常のフォーカスさえ維持することが困難である。たとえば、ある調査によると、現代人の集中力は平均して約8秒程度しか持続しないとされている。

デジタル社会に生きる現代人にとって、ハイパーフォーカスはもはや非現実的な存在となりつつある。現代の職場においても、多くの人が複数のタスクを抱えながら作業を強いられており、シングルタスクへの集中を長時間維持することが難しい。

そう考えると、かつての天才たちがおこなっていたハイパーフォーカスを現代で再現できるのは、一部のアスペルガー症候群の気質を持った人たちのみに限定されるようにも思う。

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