歌舞伎町で待ち合わせして会った大阪出身の彼女は、少し話すとすぐに関西人のアクセントがあるのに気づく。「東京に逃げてきて半年くらいになる」と彼女はいったのだが、「東京は思ったより大きい場所やけど、うちはやっぱ大阪のほうがええなぁ」といった。
その理由を聞くと、「なんか東京の男はみんなオカマみたいに見える。おじいちゃんもオカマみたい」といった。格好が女性っぽいというのではなく、「どうも、しゃべりかたが、むっさ気持ち悪く感じる。なんか上品ぶってて好きやない。男なのに『あのさー』とかゆうてるの聞いたら背筋がぞぞーっとする」というのだった。
そうやって話す彼女は、大阪弁をまったく隠すつもりも矯正するつもりもないようで、「ほとぼりが冷めたら、はよ大阪に帰りたい」と私にいった。
「でも大阪に帰ったら今度こそな、うち、懲役やって思うねん」
彼女は早口でそういって、自虐的に笑った。いつも使っている喫茶店『集』は混んでいたので、裏手にあるルノアールに拠点を移して彼女と一緒に話していたのだが、彼女の大阪弁はよく響き渡るので、私は他の客に彼女の際どい話を聞かれると思って冷や汗をかいた。しかし、彼女はお構いなしだった。
今は「池袋の上のほう」にある安いアパートに住んでいるという彼女は、「半年くらい住んでるんですけど、もう引っ越そうと思うてます」と私にいった。
「気に入らないの?」
「見張られてるような気がするというか、絶対に誰か見張ってると思います。うちの部屋はアパートの2階なんやけど、こないだも夜にイヤな予感がして部屋の電気を消してカーテンの隙間から外を見たら、怪しい軽トラが停まってましてん。運転席の男が車の中でタバコ吸ってたんやけど、たまにこっち見てくるし。どう見てもおかしいやん? ダイハツの軽トラで、うちの前の旦那の軽トラと同じやつで、もしかしたら旦那の知り合いかもしれへんし、怖いから3日くらいネカフェで寝てます」
彼女はそのようなことをいい出した。
「前の旦那はヤクザやから、絶対怪しいと思います」