私との約束をすっぽかした、あの多重債務の女性は今頃どうしているのだろう?

私との約束をすっぽかした、あの多重債務の女性は今頃どうしているのだろう?

彼女は昼職に勤める20代の女性だったが多重債務者だった。精神的に追い詰められていて、私にも「少しお金を貸してくれれば嬉しいです」と金の無心をした。取材を受けてもらって謝礼を払うということで折り合いがついて待ち合わせしたが、その待ち合わせですっぽかされた。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

約束をすっぽかした多重債務の女性のこと

以前、ある女性の話を聞きたいと思って渋谷で待ち合わせしたことがあった。ところが彼女は約束をすっぽかして、以後はまったく連絡が取れなくなった。

彼女は普通の昼職に勤める20代の多重債務者で、借金が約150万円ほどあったというのだが、あっちこっちから金を借りて首が回らなくなっていたのだった。当時、私は多くの風俗嬢に会っていたのだが、彼女を知ったのもそんな取材の最中だった。

彼女とはしばらくメールのやりとりをしていたので、会う前から彼女の人生に何があったのか、だいたい知っていた。

彼女は一度、デリヘルの面接に行って受かっている。風俗の場合は即日に実技講習や体験入店というのがあるのだが、彼女は「まだ心の準備ができていないから」と言って、面接には受かったもののそれを先延ばしした。

そして、数日すると急に「自分にはやっぱりできないと思った」ので、店の番号を拒否リストに入れて、LINEもブロックし、店にひとことも連絡を入れずに逃げてしまった。「やっぱりできません」と言えばいいのに、黙って逃げるのである。

こういう行為を「バックレ」というのだが、その店も彼女がバックレるタイプであると思ったのか、それともこういうことはよくあることなのか、彼女に対しては他の手段で執拗に連絡を入れてくることはなかった。

それはそれでいいのだが、彼女は借金まみれになって、その状況を何とかするために風俗の面接に行ったのだ。そこからバックレたのであれば、借金の返済が何ともならなくなる。

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金銭管理がおかしいと一直線に地獄に飛び込んでいく

彼女は精神的に追い詰められていて、私にも「少しお金を貸してくれれば嬉しいです」と金の無心をした。ひとまず、取材を受けてもらったら謝礼は少し払うということで折り合いがついて待ち合わせしたのだが、その待ち合わせで私もすっぽかされた。

何か緊張するイベントは、ことごとく逃げるのが彼女の性格でもあったようだ。

彼女の借金は、リボ払いで好きなものを買っているうちに生活費が足りなくなって、
消費者金融アコムから3万円を借りたことから始まっていた。リボ払いも延々と終わらず、そこに消費者金融も借金も重なって多重債務者となり、4年で約150万円の借金を作ったのだった。

「催促の電話が何回もくる」と彼女は言った。それで不眠症になり、情緒不安定になってしまっていた。

私は他にもパチンコ依存の人たちを取材したこともあって、借金まみれの人たちに大勢会った。この取材をして彼らの話を聞いているうちに、私までノイローゼになりそうだった。

相手の話を聞いて金の使い方がめちゃくちゃだと、「なんでそうなるのか」と歯痒くなって、考えているうちにこちらまで不眠症になってしまうのである。(アマゾン:どん底に落ちた養分たち――パチンコ依存者はいかに破滅していくか?

借金地獄に落ちた人たちの凄まじい状態を知りたい人は、パチンコに興味がなくても、ぜひこの本を読んでほしい。眠れないほどの恐怖にとらわれるはずだ。個人的に、この本はそこらへんのオカルト小説よりも恐ろしい内容になっていると思っている。

もう少し金銭管理をしっかりしていれば、地獄を見ることがなかったのに、彼らは金銭管理が本当におかしかった。金銭管理がおかしいと、引き返すこともなく一直線に地獄に飛び込んでいくことになる。

彼女は買い物依存でパチンコ依存ではなかったが、堕ちたところは同じだった。金銭管理が狂っていると人生は終わる。

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借金で自転車操業になったらもっと走る?

金銭管理が苦手な人は、多くの場合、自分の優先順位を決めることができない。一方でほとんどの人は、収入と支出をよく考えて計画的に金を使っている。

例えば買い物をするにしても、金銭管理がしっかりしている人は「今はこれだけお金があって今月はこれだけしか使いたくないから、これは我慢しよう」みたいな自制がきちんと働く。

もちろん、欲しいものがきちんと買える時は、必要な金を出して欲しいものを買って、人生の潤いにする。そういうことを常に無意識にでもやっている。使うにしても我慢するにしても、バランスを取っているのである。

ところが金銭管理が苦手な人は、目先の欲望に支配されて足りなくても欲しいものを買ってしまうし、持ち合わせがなければローンを組んででも手に入れたいと思ってしまう。ローンなら何とかなると思って抑制が働かない。

ところが、返済が意外に重い。その時に反省して、ローンを返しながら金銭管理を正す方に向かえばいいのだが、彼らはそうならない。返済が重いと、「もっと借りよう」と考えてしまう。

「借金で自転車操業になったら、止まるんじゃなくてもっと走ればいい」と言わんばかりにもっと借りて走る。借金が積み重上がっていくのは、金銭管理が苦手な人にとっては日常なのだ。

どれだけ借金が膨れ上がっても、無計画な支出や、予算を立てない生活が改まらないので、ますます借金が膨らむ。それほど給料が高いとは思えない非正規雇用で働く女性が150万円近くも借金を膨らませたら、まず返せない。

借金をするくらいだから貯金はゼロであり、生活も綱渡りである。これでは不安で情緒不安定になっても不思議ではない。

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借金を抱えて多重債務になるというのは恐ろしいこと

借金を抱えた人は、まわりの人々に心の内を打ち明けることはない。場合によっては家族にも一言も話さない。なぜなら、借金まみれになった事情を話すと、間違いなく金銭感覚の欠如を批判されるからだ。呆れられ、叱られる。

自分の恥を他人に積極的に話す人などいない。むしろ、恥なので、自分の置かれた苦境を必死で隠そうとする。

当然、孤独感にさいなまれることになる。生活だけでなく感情も安定しない。私の知り合った多重債務者は「何もしていても借金のことが頭から離れない」と言った。そして、「自分は何もかもダメな人間だ」と思って落ち込む。

そういう彼らも借金のことを他人に話すこともある。それは、他人から金を借りる時である。「金がないから金を貸してくれ」と言う。貸してくれる人もいるかもしれないが、拒絶する人もいるだろう。

いずれにしても、身のまわりの人々に金を借りるようになると、警戒されて交流が疎遠になり、ひとり、またひとりと自分のまわりから人が消えていく。自分自身も他人に会うことに対して消極的になっていく。絶望感に打ちひしがれ、借金の催促の電話や手紙がくるたびに死を考える。

本来であれば、その時点で債務整理の司法書士や弁護士に相談すべきなのだが、彼らはそうしない。

借金が返せなくなって極度のストレスの中にいると、「誰かに相談すべき」「専門家に相談すべき」という発想がすっぽりと抜ける。そもそも、専門家に相談するにも金がかかるわけで、金がないのに金をかけて相談するという気持ちにならない。

借金を抱えて多重債務になるというのは、すさまじく恐ろしいことなのである。

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金銭管理をするというのはどういうことなのか?

金銭管理だけはきちんと身につけておいた方がいい。しかし、金銭管理を身につけると言っても、それは別に難しいことではない。

・まずは収入を安定させる。
・収入に見合わない高額な品物を買おうとしない。
・頻繁にクレジットカードを使用しない。
・消費者金融から金を借りない。
・友人や家族から金を借りない。
・借金を放置しない。
・借金をしても返済のための借金をしない。

それぞれ「当たり前」のことである。その当たり前を淡々と実行するというのが金銭管理をするということなのだ。

物価高、増税、上がらない賃金、長く続く不景気……。日本はこれからも長い経済的苦境が続く。そうであれば、なおさら金銭管理の重要性は増していくだろう。

こういう時代は、借金を抱えることなく「普通に暮らす」ということができるだけでも幸せなことなのだ。別に宝くじでも当てて大金持ちになる必要はない。普通に働き、収入の範囲で工夫しながら暮らすだけでいい。

借金まみれの人が債務整理をして借金まみれから脱すると、一様に「普通に暮らせるだけで幸せだ」と言う。そうなのだ。借金がなくて普通に暮らせるというのは、それだけで幸せなことなのである。

私との約束をすっぽかした、あの多重債務の女性は今頃どうしているのだろうと思うこともある。心を入れ替えてまともな人生を送っていればいいが、もしかしたら今も抜けられない地獄でもがいているのかもしれない。

『暗部に生きる女たち。デリヘル嬢という真夜中のカレイドスコープ(鈴木 傾城)』
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