どん底の人たちが社会に恨みを持ち、大量殺人・衝動殺人に走る姿が日常化する

どん底の人たちが社会に恨みを持ち、大量殺人・衝動殺人に走る姿が日常化する

ガソリンが大量殺人の最適解だと理解され、手口は共有化された。そのため、これからはガソリンをまいて火をつける大量殺人が増えるかもしれない。あるいは、満員電車で事件を起こす人間も出るかもしれない。満員電車でガソリンをまかれて火をつけられたら逃げられない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

大阪市北区曽根崎新地の心療内科クリニック放火事件

2021年12月17日、大阪市北区曽根崎新地の心療内科クリニック「西梅田こころとからだのクリニック」が放火され、患者ら男女27人が心肺停止状態で救急搬送、25人が死亡するという事件が起きた。ほとんどの被害者は一酸化炭素(CO)中毒であった。

犯人は61歳の谷本盛雄という男だった。この心療内科クリニックの受診者でアルコール依存で診てもらっていた。

酒癖は悪かった。実の父や兄とも疎遠になったのは、アルコールを飲んだら声を荒げたりするような一面があったからでもある。断酒のためのカウンセリングを受けて薬ももらっていたが効き目はなかった。

この男は8階建てビルの4階にあるクリニックに入って、ガソリンが入った紙袋を2つ持っていたのだが、それを蹴り倒して中身を流出させ、しゃがんで持参したライターに火をつけて一瞬にして現場を阿鼻叫喚の地獄にした。

このクリニックには奥に出入口がなく、入口が火に包まれたら中にいた医師や患者たちは逃げ場がないことを知っていた。すなわち、全員を殺せることをしっかり計画して行った犯罪だった。

谷本盛雄は東日本大震災が起きていた年である2011年に元家族を殺害しようとして長男を包丁で刺して逮捕、服役していた人物であった。出所後は大人しくて「根は良い人」という評価だったが、頑固で短気な側面があった。

人間関係の構築も得意ではなく、家も仕事も転々として生きていた。腕利きの板金工として仕事に打ち込んでいた時期もあったが、その後は職を転々として競馬に金を注ぎ込み、犯行前は仕事をほとんどしていなかった。

ブラックアジアでは有料会員を募集しています。よりディープな世界へお越し下さい。

谷本盛雄は本気でガソリンによる大量殺人を狙っていた

大阪市内にある谷本盛雄の住宅からは「京都アニメーション」の事件に関する記事の切り抜きが見つかっている。さらに他の放火事件の記事や、「大量殺人」だとか「放火殺人」と書かれた切れ端も見つかっている。

通称「京アニ事件」と呼ばれるこの事件は2019年7月に起きたもので、71人が死傷するという戦後最悪の放火事件だった。

「京アニ事件」を取り上げた新聞記事は2021年7月のものであったが、谷本盛雄がわざわざそれを切り抜いて保管していて「大量殺人」という紙もあったというのは、「同じことをしてやる」という意図があったからに他ならない。

新聞記事の日付から逆算すると、谷本盛雄は5ヶ月前からはすでに犯行を思い浮かべていたということになる。ガソリンは11月に近所のガソリンスタンドで10リットル購入していた。

この時は本人名義の身分証を出していたので犯行のために自分の身を隠す意図はなかったことが分かる。それはすなわち、11月の時点で「火をつけて死ぬ」ことを計画していたということでもある。

さらに谷本盛雄は催涙スプレーも持っていたのだが、これは犯行が止められるような事態も想定して入念に準備していたということだ。まさに計画犯罪である。本気で大量殺人を狙っていたというのが分かる。

当日は大阪市西淀川区姫島の3階建て民家の2階部分を燃やして、阪神電車の姫島駅から梅田に向かい、そこから自転車に乗って現場のクリニックに向かっている。実は犯行の前日に、非常階段に粘着テープを貼って消火栓も使えないようにしていた。

ただ、なぜ谷本盛雄がこのクリニックを犯行現場に選んだのかはよく分かっていない。私怨だったのか、それとも「犯行に適した場所だ」と思って選んだのか。谷本盛雄が生き残れば状況が分かってくるはずだが、今は意識不明の重体のままである。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、『ブラックアジア カンボジア編』はこちらから

建物内でガソリンをまいて火を付けたら大量殺人できる

谷本盛雄は今の社会でうまく生きていけない性格の男であったことが分かる。アルコール依存でうつ病気味で被害妄想もあり、自分がこうなったのはすべて「他人のせい」だという意識で生きていたようだ。

父や兄とうまくいかなかったのは本人のアルコール依存が原因だったが、谷本盛雄はそれを父や兄のせいにした。家族とうまくいかなかったのも、谷本盛雄は自分のせいではなく家族のせいにしていたことを谷本盛雄の知人は語っている。

それはアルコール依存者特有の被害妄想から来ているのかもしれないし、本来の性格だったかもしれない。いずれにしても、うまくいかない人生を他人に責任転嫁するしかないような心境であったようだ。

谷本盛雄の知人は、この男がしばしば問題を他人のせいにして現実逃避していたというのを語っている。

心中に失敗して服役し、出所した後は仕事もうまくいかず生活保護で暮らして生活も荒れていたので、社会に対する「恨み」もあったようだ。

そうした自分の状況を悲観して谷本盛雄には自殺願望もあったのだが、この男の場合は「ひとりで死ぬ」のは嫌で「誰かを道連れにしたい」という厄介な感情にとらわれていた。

だからこそ、2019年に起きた「京アニ事件」に引き寄せられ、建物内でガソリンをまいて火を付けたら大量殺人できるという「現実」に引き寄せられていったのだろう。この事件はまぎれもなく京アニ事件の模倣事件である。

何も持たない男、前科もあってアルコール依存で社会からも見捨てられて将来など何もない「無敵の人」が、社会に対して報復して自分の存在を誇示するには、大量殺人が打ってつけであると谷本盛雄は京アニ事件で思ったのだというのが窺い知れる。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

満員電車でガソリンをまいて大量殺人する人間も出てくる

今の弱肉強食の資本主義は日本にも大量の貧困層を生み出す社会となった。非正規雇用として雇われて使い捨てされる人たちが大量に増えたのが2000年代からである。

非正規雇用はそれが増え始めた2002年から現在まで、ずっと右肩上がりで推移している。そして、若年層だけでなく中高年から高齢層までが「這い上がることができない社会」のどん底に突き落とされていくようになった。

それが「自暴自棄」を生み出しており、多くの衝撃的な事件につながっている。

今年起きた「小田急線の無差別切りつけ事件」も、それを模倣した「京王線ジョーカー事件」も、そして今回起きた谷本盛雄の心療内科クリニック放火事件も、みんな社会でうまく生きていくことができないどん底の人が起こした事件である。

貧困層が増え、格差が広がるだけでなく、メンタリストDaiGo(松丸大吾)みたいに「ホームレスの命よりも猫の方が大事」とほざく傲慢な成功者がマウントを取るような世界になっているのだ。

そんな中でどん底の人たちは沸々と社会に対する憎しみ、成功者に対する止めることができない憎しみを募らせている。

とすれば、これから何が起こるのか誰もが理解できるはずだ。

どん底に落ちた人たちが、社会に恨みを持ち、復讐心を抱き、大量殺人・衝動殺人に走る姿がこれから日常化するということである。

日本は銃がないので大量殺人はナイフで切りつけるしかないと思われていたが、すでにどん底の男たちは「狭い空間でガソリンをまいて火をつければ効率的に大量に人を殺せる」と学んだ。

ガソリンが大量殺人の最適解だと彼らは理解し、手口を共有化した。そのため、これからはガソリンをまいて火をつける大量殺人が増えるかもしれない。建物だけでなく、満員電車で事件を起こす人間も出てくるかもしれない。

満員電車でガソリンをまかれて火をつけられたら逃げられない。社会が荒廃していく中、私たちは一瞬にして巻き込まれて死ぬ可能性がある。

ボトム・オブ・ジャパン
『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底(鈴木 傾城)』

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

事件カテゴリの最新記事