まったくうまくならないギターを抱えながら、それでも反復の重要性を思い知る日々

まったくうまくならないギターを抱えながら、それでも反復の重要性を思い知る日々

慣れていない、知識がない、身体が思う通りに動かない、どれだけ繰り返しても身に付かない、覚えられない、翌日には忘れる……。それでも取り組んだからには何か弾けるようになりたいとは思っているので、自分の無能力さを受け入れるしかない。ただ、最初はこんなものだろうとも達観している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

思い立てば明日からすぐに手に入るわけではないと実感する

コロナ禍で私もこの2年、フラフラ出歩いたり海外に出たりすることもなくなったので、ずっと根城《ねじろ》にこもっていた。

お陰で『ブラックアジア 売春地帯をさまよいあるく日々』をすべて電子書籍化し、さらには『スワイパー1999』『カリマンタン島のデズリー』『コルカタ売春地帯』『絶対貧困の光景』をペーパーバック化するという仕事もすることができた。

それだけでなく、少しは新しい何かを覚えようと思って、以前から関心があったギターも細切れの時間を使って細々と独習している。(ブラックアジア:今年もコロナ禍が収束しそうにないので執筆の合間にギターを覚えることにした

腕前は……悲しいほどひどい。

しかもフォークギターを買ったのに、なぜか取り組んでいるのはクラシック曲の『エリーゼのために』である。ギターが全然違うというのも知らなかったし、この曲が初心者向けの曲ではないというのも知らなかった。人に言うと笑われた。

しかし、後戻りできないのでフォークギターでこのまま練習している。

その結果、一小節ごとに押さえるのを失敗しながらも、最初から最後まで「どこを押さえるのか」だけは何とか覚えた。きちんと止まらないように押さえられるようになるのは、きっと長い時間が必要になってくるのだろう。

初心者からこんな複雑怪奇な曲(途中からややこしくなる)に挑戦しなければ良かったと後悔しながら、合間に何か簡単な曲でも覚えて弾けるようにしたいと思うようになった。一歩一歩、進めるしかない。

当たり前だが、何か新しい能力を身に付けたいと思っても、思い立てば明日からすぐに手に入るわけではないというのを今さらながらに思う。新しい何かの能力を身に付けたいと思ったら、失敗に失敗を重ね続ける経験をするしかない。誰かに金を払っても能力は身に付かないのである。

「失敗しないと成功しない」と言った人がいたが、本当にその通りだと思う。これは楽器の演奏に限ったことではない。芸術作品の創造も、スポーツも、職人の仕事も、ありとあらゆる「能力」は思い立ってもすぐ身に付かない。失敗を重ねて上達する。

まったくうまくならないギターを抱えながら、今はその段階だと自分を慰めている。

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慣れていない、知識がない、身体が思う通りに動かない

私は大量の文章を書いているのだが、「どうやって文章を書く勉強をしたのか教えてくれ」と言われたことがあった。実は私は文章の勉強などしたことはない。書いているうちに、自然に書けるようになった。

コツは何かと言われたら、「大量に書き続けたこと」と答えるしかない。そうであれば、ギターも大量に練習することで上達するのだろうと、しみじみと思う。ギターについては文章を書く合間の短い時間だけしかやっていないので、それを考えると上達は相当先の話になりそうだ。

ただ、最初はこんなものだろうとも達観している。

慣れていない、知識がない、身体が思う通りに動かない、どれだけ繰り返しても身に付かない、覚えられない、翌日には忘れる……。それでも取り組んだからには何か弾けるようになりたいとは思っているので、自分の無能力さを受け入れるしかない。

『エリーゼのために』に取り組んだのは後悔しているが、ギターを覚えることについては後悔していない。新しいことをやっていると思うこともいろいろある。今はいい経験をしているのかもしれない。

この曲を一小節、一小節ごとに覚えていきながら確信したのは、やはり「すべての能力は反復で身につけるというのは本当だった」ということだ。以前から、新しい能力を手に入れるためには「反復」こそが重要なのだと理解していた。

今回、ギターを覚えていくという過程で私はそれを絶対的真理であると確信した。反復の数が重要だったのである。頭で覚えても身体がついていかないのであれば弾けない。頭よりも身体に覚えさせる必要がある。

どうやって覚えさせるのか。反復で覚えさせるのである。いろいろ考えたが、それ以外に方法はない。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、『ブラックアジア カンボジア編』はこちらから

自分の身体で、自分の時間をかけて、反復しなければならない

能力を手に入れるためには慣れる必要があるのだが、慣れるためには繰り返しの反復が唯一の手段である。習熟に長い時間がかかるかもしれないが、それでも「反復」しているうちに身体が条件反射のように動くようになるのが普通だ。

反復する中で、覚えたものを脳に刻み込み、覚え、忘れないようにすることができるようになる。そういった意味で、新しい能力を手に入れたいと思っているのに反復しないのであれば、それは身に付かない能力となる。

自分が何気なくこなしている日常的な行為のほとんどは反復することによって手に入れてきた能力でもある。「立って歩く」という当たり前に見えることですらも人間は反復で手に入れた能力だ。

逆に反復しない能力は失われる。足にケガをしていなくても、半年も「立って歩く」という能力を反復しなければ歩けなくなる。筋肉も退化して歩くという機能が完全に失われ、車イスの生活になる。

反復をしなければ失われるのだ。重要な能力を喪失したくなければ、反復しなければならないのである。

今まで何気なくこなしている能力ですらも反復を忘れて消えていく。それならば「新しい能力」を身につけるのに、意識的に強い反復を自分に課さなければならないというのは誰でも気付く。

自分の身体で、自分の時間をかけて、反復しなければならない。コツを教えてもらうことはできても、反復は自分で繰り返さなくてはならないのである。必要な能力が欲しければ、絶対に自分自身で反復して身につけなければならない。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

いつかインドネシアに行った時、聴いてもらえるように

私はスポーツにはまるっきり関心がないのだが、どこかの雑誌で読んだ内容で今でも印象に残っている部分がある。

競技の中で何を重要視しているのかと問われて、そのアスリートは「呼吸」と答えた。どのタイミングで息を吸っておくのか。どのタイミングで吐いておくのか。それで結果がまったく違うものとなると言うのである。

「そうか、プロは呼吸ひとつでも重要なのか」と私は感銘を受けたものだった。吸っている時と吐いている時はパワーも微妙に違っていて、その微妙な違いが勝敗を分けるのである。

こうした細かい点はまさに「身体で覚える」べきものなのだろう。とすれば、それは反復の中で試行錯誤しながら身体で覚えていくしかない。

いかに反復できるか……。

反復は同じことを延々と繰り返しているのではなく、条件や環境を変えて、それでうまくいくかどうかを試行錯誤する場でもある。つまり、反復は試行錯誤であり、試行錯誤は仮説・検証のシステムである。

ギターを覚えていると、反復は身体に慣れさせるためだけではなく、仮説・検証のシステムであるというのもよく分かる。押さえ方を変えたり、ピッキングを変えたり、ギターの位置を微妙に変えたりしながら手探りでベストを探っていく。

こうやって手に入れた能力は、膨大な仮説と検証で裏打ちされているので、どんな環境でも発揮できる強靭な能力となる。

試行錯誤とは「何をしたら正しくないのか」という重要なデータを積み上げるために必要な方法である。だから、試行錯誤をたっぷりと行って手に入れた能力は強く、そうでない能力は弱い。

そんなことを思いながら手探りでギターの練習をしているのだが、さて私がギターで何かを弾けるようになるのは、いつ頃になるのだろうか……。

インドネシアの集落《カンポン》ではフォークギターを抱えて何か弾いている人が多くて、彼らの輪に入って私も何かギターを弾いて彼らと仲良くなれればいいなとか思ったりしている。

『エリーゼのために』を人に聴かせられるようになるには1年以上はかかりそうなので、ひとまずは何か簡単そうな曲を覚えて、いつかインドネシアに行った時に彼らに聴いてもらえるようにしたいものだ。そのためには、もっと反復をしなければ……。

ブラックアジア・インドネシア編
『ブラックアジア・インドネシア編 売春地帯をさまよい歩いた日々(鈴木 傾城)』

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