インドネシアのコロナ危機。リスクある環境では誰もがワクチン接種を求めている

インドネシアのコロナ危機。リスクある環境では誰もがワクチン接種を求めている

医療設備は貧弱、ワクチンはない、薬もない、酸素もない、ベッドもない、国家の統治能力は脆弱、行政も福祉も機能していない、衛生観念も悪い、清潔な水も高いか手に入らない、生活環境も病人には配慮がない……。リスクある環境では誰もがワクチンを切に求める。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

今や全員が生きるか死ぬかの危機に落ちているということ

インドネシアのコロナ危機が収まらない。この国では6月の半ばから凄まじい勢いで新規感染者が増え始めていった。

7月12日からは連日の4万人超えとなり、死者も毎日のように1000人から1500人で推移するようになり、今や東南アジア最大の汚染地帯と化した。もうブラックアジアで描いた歓楽街・売春地帯の多くは崩壊し、存在していないだろう。

しかしながら、売春地帯が存続するかどうかとか、もはやそういう次元を超えたレベルの危機が今まさにインドネシアを覆い尽くしている。多くの集落(カンポン)や、コミュニティやエリアが崩壊してしまった。

インドネシアと言えば、『ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々 インドネシア編』で書いた通り、私にはとても馴染みがある国である。今でも彼らの人懐っこい笑みがいつも思い浮かぶ。

インドネシアの人たちは恐らく東南アジアで最も人懐っこい。そして、素朴で優しい人が多い。私はインドネシアの人たちの気質がとても好きだ。

知り合った女性たちの顔を思い浮かべては、きちんと生き残れているのか心配する。確率的に言えば、私が知り合ってきた女性たちの何人かはコロナに感染して、重症になったり亡くなったりしている可能性が高い。

考えて見たら、タイもインドもフィリピンもひどい有様になっていて、今は地獄のような様相である。私が知り合ってきた女たちは、今や全員が生きるか死ぬかの危機に落ちているということになる。

そんなことを考えると、本当に心から気が滅入る。

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途上国はこれを速やかに収束させることはできないのでは?

インドネシアは島嶼列島である。そして、それぞれ小さな共同体を持っていて、独自の文化があって、外部とはそれほど関わらない集落(カンポン)も多い。しかし、完全に隔絶されているわけではないので、人々の行き来は当然ある。

だから、閉鎖的な集落であっても感染者が出ないわけではない。むしろ、閉鎖的な村であればあるほど、村人全員が家族のように付き合って濃厚接触するので、パンデミックが起きやすい。

こうした場所では医療も福祉も整備されているわけではない。だから、感染力が強く重症化しやすいデルタ株でやられてしまった。

私自身はこれまでの武漢型のコロナとデルタ株とは違う印象を持っていて、デルタ株は危険度をバージョンアップさせて、途上国はこれを速やかに収束させることはできないのではないかと思いが傾きつつある。

迅速に収束させることができないと、それはもっとひどい事態を引き起こす。

デルタ型はファイザーのワクチンですらも効き目を落とすことが知られているのだが、コロナが何度か変異すると、いよいよワクチンが効かない種類の変異型が誕生する可能性もあるのだ。

これはアメリカの米疾病予防管理センター(CDC)のトップが言っているのだが、「コロナウイルスはあとほんの数回の突然変異で今あるワクチンから逃れる恐れがある」と述べている。

さらに変異すればするほど強毒化するので、感染力も危険度も増して重症者や死者も増やしていく。この次の変異型は、まだワクチン接種率が低い途上国で生まれるのではないか。

そういう目で私は東南アジアを窮地に陥れているコロナのデルタ型を見ている。

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途上国から見ると日本はとても恵まれた国であると言える

日本人は最先端の医療設備と最高の福祉制度とよく訓練された医師と献身的に働く看護師に囲まれて暮らしている。しかも、身辺を衛生的に保てる清潔な水があり、薬があり、インフラがある。

だから、多くの人はコロナに感染しても「国や病院や行政が助けてくれる」という安心感と共に暮らしている。これほど恵まれた環境にいれば、「コロナはただの風邪」「かかっても大したことはない」と思える。

途上国から見ると日本はとても恵まれた国である。途上国では、そもそも医療設備が整っていない。

コロナに感染して呼吸が苦しい、息ができない、だるい、歩けないとなっても、人工心肺装置があるわけではないし、そもそも酸素そのものも病院にないので家族が見つけてこなければならなかったりする。

酸素ボンベを見つけるために、コロナに感染して伏している家族を置いて、死にもの狂いで街をさまよい歩いている人も大勢いるのだ。

ワクチンにしても、日本のように環境が整っているわけではないのでマイナス70度で管理しなければならないファイザーのワクチンを扱えない。

常温で扱いやすいアストラゼネカは供給が不足しているので、「水ワクチン」と言われている中国製のワクチンを打つしかない。

インドネシアはまさにそうで、いまだ国民の6%ほどしかワクチンを打っていないのだが、その6%も中国製ワクチンだったので、デルタ型にはまったく効果がなかった。だから、医師や看護婦が次々とコロナに感染して死んでいるのである。

病院に行っても助けてくれるとは限らず、ワクチンも打てない。ファイザーのワクチンはないし、薬もないし、病床もない。インドネシアは今「ノーガード」で戦っているも同然だというのが分かるはずだ。

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途上国に暮らす人間にとってそれは「とびきりの贅沢」なのだ

日本では「ワクチン接種はしたくない」と言っている人がいるが、先進国・日本で暮らしている恵まれた人の「贅沢」ではないか。

今、インドネシアだけでなく東南アジアに暮らす日本人の多くは、日本に帰りたいと願って必死で帰国便を探したり、政府に特別チャーター便を要請したりしている。

インドネシアでもそうで、日本人村に暮らす日本人の多くは、どんなに金を払ってもいいから帰国したいと言っている。なぜなら、今の東南アジアでは「コロナにかかったら死ぬ」と理解しているからだ。

医療設備は貧弱、ワクチンはない、薬もない、酸素もない、ベッドもない、国家の統治能力は脆弱、行政も福祉も機能していない、衛生観念も悪い、清潔な水も高いか手に入らない、生活環境も病人には配慮がない……。

そんな国でコロナにかかったら、かなりリスクが高いというのは誰でも分かるはずだ。そして、そういうリスクある環境であれば「ワクチン接種はしたくない」なんか言っている場合ではないというのも分かるはずだ。

日本ではファイザーのワクチンやモデルナのワクチンが打てるのだが、途上国に暮らす人間にとってそれは「とびきりの贅沢」なのである。多くの人が「日本人は羨ましい、日本に生まれたかった」と思うはずだ。

私自身は別に「ワクチン接種はしたくない」という日本人に無理に打てとは思わないし、逆に打ちたくないのであればそれを打ちたい人に回し、余った分はとにかくワクチンを早く接種しなければまずい途上国の人たちに回した方がいいと思っている。

要らないという人に与える必要はないし、それより要るという人に与えた方が合理的である。今後、ウイルスが凶悪化したら、ますますワクチンが重要になる。打ちたくない人に打たせるワクチンはなくなる。

途上国は必死でワクチンを求めていて、打ちたくない人よりも途上国の打ちたい人にワクチンを回して上げたいという心境がある。世界有数のコロナ汚染地帯となってしまったインドネシアが一刻も早くコロナ禍から抜け出せることを願っている。

ブラックアジア・インドネシア編
『ブラックアジア・インドネシア編 売春地帯をさまよい歩いた日々(鈴木 傾城)』

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