インドで広がるコロナ変異種による地獄は今年中に何とか収束させられるか?

インドで広がるコロナ変異種による地獄は今年中に何とか収束させられるか?

ワクチンが開発され、接種も急激に進んでおり、コロナ禍は収束するメドが立っている。しかし、世界人口は74億人もいるわけで、今年中に世界がワクチンを収束させることはできそうにない。私たちが昔のように自由に好きな国を訪れる社会はまだ先の話のようだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

毎日40万人が新規に感染して4000人が死んでいくインド

インドのコロナ感染が危機的なことになっている。インドは2021年の3月の半ばまでは実に平穏で、モディ首相も「インドは世界で最も多くの人命を救うのに成功した国の一つだ」と高らかに述べていた国でもあった。

しかし、3月の後半になってから徐々に感染者が増えていき、4月に入ってから一気に「異常事態」に突入した。感染が止まらなくなってしまい、重症者が増え続け、世界最悪のペースで感染者と死者が増え続けていくことになった。

いまやインドでは毎日40万人が新規に感染して4000人が死んでいく凄惨な光景が出現している。多くの病院で医療用酸素や病床が不足し、窒息状態になって苦しみもがいている患者が大勢いて、家族が酸素を求めて狂奔している。

遺体安置所や火葬場が収容能力も限界に達している。

路上で遺体が安置され、広場に急遽作られた簡易的な火葬場で遺体を焼いている。遺体を焼くための薪も不足してしまっているので安置されたままの遺体もあって、現場はさながら「戦場のようだ」という状況だ。

こうなってしまったのは、モディ首相が宗教行事や選挙活動のためにロックダウンに消極的だったことや、「インドはコロナを封じ込めている」という慢心が重なったからであると予測されている。

そして、後になって「もうひとつの要因」も明るみに出てきた。危険な変異種が生まれて、それがインド国内で広がっていたのである。

インド変異種は「B.1.617」と呼ばれるものである。南アフリカで変異したものと、カリフォルニアで変異したものが合わさって二重に変異していた。

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今後、パキスタンは悲惨なことになっているかもしれない

このうちのカリフォルニアで変異した型が感染の増加をもたらしている可能性が見えてきた。現在、インドのコロナの8割がこの変異ウイルスとなっているわけで、その感染力の強さが窺い知れる。

南アフリカで変異ものは免疫逃避型で、これが感染者を重症化させる。つまりインドのコロナウイルスは感染力が強く重症化しやすい変異種だったのである。

私たちは去年から「コロナ、コロナ」と言っているが、現在のコロナは、去年のオリジナルな「武漢コロナ」とは違ったものが流行しているのだ。

去年のものを「武漢コロナ」と呼ぶのなら、今後は「武漢コロナ(イギリス変異種)」「武漢コロナ(インド変異種)」等々と明確に区分けした方がいいのかもしれない。区分けして考えるのは重要だ。感染力の強さや危険さがまったく違っているからである。

このインド型だが、ケーララ州でさらに変異して「致死率15倍」の型も誕生したとインドのローカル紙が報じている。もともとウイルスはコロナに限らず、変異しやすい性質を持つ。弱毒化することもあるが、その前に強毒化することもある。

インドは不幸にも強毒化した。『新しい変異体は潜伏期間が短く、病気の進行ははるかに速い』というので、徹底的な封じ込めができないとインドは世界最悪のコロナ汚染地帯と化してしまいそうだ。

そして、こうした変異種が広がると、問題はインドだけにとどまらなくなる。

インド型コロナの大感染はインドと陸続きのネパールでも広がっている。7日間で平均1200%以上もの増加となっている。インド大陸の涙と言われてるスリランカもまた感染者がここにきて異常急増している。変異種が入った可能性が高い。

ということは、バングラデシュもまた無事ではおられないということだ。バングラデシュは4月頭がピークで、以後は収束状態になっているのだが、インド変異種が入れば間違いなく第三波が入り込む。バングラデシュまでくれば今度はミャンマーにも入る。東南アジアまで目前だ。

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パキスタンは悲惨なことになっているかもしれない

パキスタンはどうか。実はパキスタンは今「慢心」している。

パキスタンでは「イスラムの神を信じていないインドは路上で人が死んでいるが、神は我々に優しい」と言って、一万人もの人々がマスクもしないでぎゅうぎゅう詰めの中で宗教行事を行っているのである。

こうした宗教行事とは別に、パキスタンでは毎週のようにモスクに人が集まって、集団で祈りを捧げている。最初はマスクをしていた人々も、後半になるとマスクを外して大きな声で祈ったり歌ったりする。

5月は特に宗教的な行事や集まりが多いようで、パキスタンの各地で大規模な宗教行事が行われているということだ。

恐らくパキスタンにもインド変異種がすでに入っている。だとしたら、5月の終わり頃には、パキスタンは悲惨なことになっているかもしれない。パキスタンが今のインドのような状態になれば、インド変異種はやがて中東にも向かっていく。

インドはすさまじく人口が多い。そして、インドは人の流れも活発だ。だから、インドがこのような状態になっているということは、そのまま周辺国を経て、東南アジア・中東にも飛び火するということなのである。

希望があるとしたら、すでにワクチンは開発されており世界各国で接種も行われているということだ。欧米では急速にワクチン接種が終わっていて、これで変異種も抑えられるとしたらもうパンデミックは起こらない。

インドも政府が本気を出してワクチン接種を進めていったら5月をピークにして感染拡大を抑えることが可能になるはずだ。もともとインドはジェネリック製造大国であり、ワクチンの製造も可能な国である。後は国民をいかに早くワクチン接種させることができるかで今後の行方が変わってくる。

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私たちが昔のように自由に好きな国を訪れる社会はまだ先の話

5月に入ってからインド政府は巻き返しに走っている。現在、インドは接種回数が1億回を超えており、世界最速でワクチン接種が進んでいる。

インド変異種は日本に入って来るのだろうか。恐らく少なからずは入って来ることになるだろう。なぜなら、日本は入国制限がザルで、毎月約2万人が入国している。国会議員の佐藤正久氏は「そのうちの2割はザル入国」だと述べている。

日本政府は帰国者の所在や健康状態を把握できていないのである。

危険な変異種に溢れるインド等で行動歴があった18人が日本の空港に到着してコロナに感染していたことが分かったと5月5日にも報道されているのだが、空港検疫をすり抜けた人間がひとりでもいると、インド変異種は国内で広がる可能性はある。

ただ、私自身は仮に日本にインド変異種が入ってきたとしても、インドのようにひどいことにはならないのではないかと予測している。

日本政府はワクチン接種ひとつを取ってもまったく不甲斐ないのだが、日本国民はきちんとマスクをして衛生観念に気をつけながら生活している。「自粛を守らない人もいる」と行政は憤っているのだが、日本人はこれでも世界でも希有なほどきちんと自衛をしている方だ。

そんなわけで、今の日本人の民度を見ると、確かに感染者の増減はあるにしても、インドで起きているような「地獄の様相」は起こらないように思える。

しかし、日本人が生真面目に緊急事態宣言を守って活動を止めると、一緒に経済も止まってしまうことになるので、緊急事態宣言が長引けば長引くほど国民生活は悪化していく一方となる。

ワクチンが開発され、接種も急激に進んでおり、コロナ禍は収束するメドが立っている。しかし、世界人口は74億人もいるわけで、今年中に世界がワクチンを収束させることはできそうにない。

私たちが昔のように自由に好きな国を訪れる社会はまだ先の話のようだ。

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