小説『グッドナイト・アイリーン』に小説一編と解説を追加しペーパーバック化

小説『グッドナイト・アイリーン』に小説一編と解説を追加しペーパーバック化
『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン(鈴木 傾城)』

かつて、東京・町田には異国の女たちが集う特殊な売春地帯がありました。「ちょんの間」と呼ばれるスタイルで行われていた置屋売春なのですが、この売春地帯は2000年代の前半まで存在しておりました。

ここに異国の女性が大勢いたのですが、この小さな売春地帯を描いたのが、ブラックアジア的小説『グッドナイト・アイリーン』です。

本日、この小説に『町田・青線地帯』という短編をひとつ付け足して、同時にペーパーバック化しました。

実は中編小説『町田・青線地帯』は『グッドナイト・アイリーン』の前に書いていたのですが、十数年年以上もお蔵入りしておりました。なぜかというと、登場人物が台湾の女性だったからです。

ブラックアジアは東南アジアの女性をテーマにしていたので、登場人物が台湾の女性ではブラックアジアにそぐわないのではないかと当時は考えて、せっかく書いたものの、ずっと表に出さないでいました。

今回、この手元にずっと置いていた短編を若干の修正を入れて、『グッドナイト・アイリーン』と合冊させることで表側に出しました。どちらも当時の2000年から2004年頃の町田・青線地帯を舞台にしております。

町田・青線地帯を描写しているのは、日本でこの小説が唯一だと思います。

アマゾンのページはこちら。
http://amzn.to/2wDZIH7

小説『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン』

『町田・青線地帯/グッドナイトアイリーン(鈴木 傾城)』
ASIN ‏ : ‎ B00IEG7JP6

注意。新しい版を欲しい方はこちらを参考に!

*注意 この小説は「第4版」です。装丁も内容も新しくなっておりますので、新しい「版」が欲しい人はAmazonサポートメニュー「カスタマーサービスへの連絡」から、以下の文をチャットに貼り付ければ、すぐに最新版を配信してくれます。お試し下さい。

『町田・青線地帯/グッドナイトアイリーン(鈴木 傾城)』(ASIN ‏ : ‎ B00IEG7JP6)の最新版のダウンロードを申請します。新しいバージョンにアップデートすると、現在保存しているハイライト、ブックマーク、メモおよび読み終えた最後のページ番号が削除されることを、わたしは十分に理解しており、それらを了解しております。

舞台背景となった日本の現状とは?

小説『町田・青線地帯』『グッドナイト・アイリーン』の中では詳しく触れていませんが、舞台となっている年代は2000年〜2004年2月までの話です。

『グッドナイト・アイリーン』の最後にちらりと触れておりますが、この町田の小さな売春地帯は、2003年の後半にはすでに警察による締め付けが強くなりつつあった時期でした。

これまで放置されていた外国人女性による売春は、突然、せわしなく摘発されるようになっていたのです。

何があったのでしょうか。

売春地帯をうろうろする男たちの多くは気付いていなかったのですが、この小さな売春地帯にも「国際情勢」の波が押し寄せていたのです。

この頃、日本はアメリカのブッシュ政権から「日本は人身売買国家である」と名指しで糾弾されていました。

多くの「普通の日本人」は、日本で人身売買が行われているなど思いもしなかったので、この指摘には仰天することになるのですが、日本の歓楽街に馴染みのある男たちはブッシュ政権の指摘は的外れではないことを知っていました。

これは日本の暴力団が、東南アジアやフィリピン等から女性を歓楽街に堕として強制的に売春をしているという流れが1980年代後半から20年近く続いていたことを指しています。

1980年代は「じゃぱゆきさん」という言葉が知られるようになった時代です。

日本がバブルで踊っているとき、黄金の国ジパングを目指して、東南アジアから大量の女性が少しでも稼ごうとなだれ込んできていました。これが、人身売買の温床になっていました。

現在の町田のラブホテル街の光景。かつて、ここには「ちょんの間」と呼ばれる場所がありました。今は昔の話です。

2002年頃の日本の売春地帯ではどうだったのか?

日本のバブルは1990年で弾け飛び、その後は底知れぬ不況が日本を覆い尽くして日本人の自殺率も常に3万人を超えるような暗い時代となっていきます。

しかし、この時代になって外国人女性は日本から出て行ったのかというと、まったくそのような気配はなく、むしろ夜の世界はフィリピン女性が中心になっていきました。

そして、路上にも夜になって外国人女性がたくさんストリート売春するようになっていたのです。

当時のストリート売春のメッカは、今は在日韓国人に占拠された新大久保です。新大久保は細い路地に小さな場末のラブホテルが建ち並ぶ地区で、ここに外国人女性が立ちました。

タイ女性、コロンビア女性が中心で、彼女たちを建設現場で雇われて入って来ていたイラン人の男が用心棒をするというスタイルになっていたのです。

しかし、2000年に入る頃から日本の不況もいよいよ深刻なものに変貌していき、外国人女性も日本であまり稼げない時代に突入していきます。

以前のブラックアジアでは、2002年にこの頃の日本の情勢を書いた文章が残っています。私はこのように書いていました。

かつてバブルの絶頂期の頃、企業は盛んに設備投資を行った。

それが人手不足となり、賃金上昇と外国人労働者の受け入れにつながった。高賃金を得た人々は消費に走り、セックス産業も大活況を迎えた。

表社会で大金が稼げるようになると、女たちはきつく危険な夜の商売よりも、表社会の仕事に就く。

従ってセックス産業は需要が高いにもかかわらず、女たちを供給できないという困った事態に陥ってしまった。そこでセックス産業は、アジアから女たちを「輸入」することを思いついたのだった。

バブル時の大量の「じゃぱゆきさん」が発生したのは、時代が「じゃぱゆきさん」を必要としていたからだ。「じゃぱゆきさん」の主な国籍はタイ女性とフィリピン女性だ。

日本人は、どちらかと言うとフィリピン女性の方を好んだので、夜の街を歩けばフィリピン女性を見ない日がないほど、日本にフィリピン女性が溢れることになる。

もちろん、好景気に沸く日本を他の外国人女性も黙ってみているはずもなく、タイ・韓国・中国大陸・インドネシア・ロシアと、ありとあらゆる国籍の女たちが入国を試みた。そして、そんな女たちが夜の街に立ったのである。

中南米からもやはり女たちがやって来ていた。コロンビア・ベネズエラ・パナマの女たちである。彼女たちを送り込んでいたのはコロンビアの麻薬組織だという。

女の膣や子宮にコカインを隠して日本に送り込ませ、その後は売春ビジネスで働かせる。それがコロンビア麻薬組織の発想だった。

アメリカでは中南米の女性で不審だと思うと、膣の奥まで入国時にチェックする。日本はそこまでしない。

安い外国人労働者として肉体労働に従事したアラブ系の男が用心棒になって入管や警察、ヤクザから女たちの身を守り、女たちが我が物顔で徘徊したのが新大久保だった。

しかし、やがてバブルが弾けて日本の好景気は終わることになる。せっかく日本に来たものの、仕事が見つからない外国人も増える。

そんな外国人が増えていけば行くほど、新大久保は外国人で溢れることになった。

しかし、その後日本の景気は一向に回復しない。

外国人労働者の数も減り、日本でチャンスをつかもうと帰国を拒んでいた外国人たちもあきらめて帰って行く。そうやって新大久保から少しずつ外国人売春婦が消えていく。

かつて、新大久保では金曜日の夜ともなると、そちこちに売春する女性が立って賑わっていた。しかし今では、もうほとんどいなくなっている。

久しぶりにタイの女をここで見た。かつて日本にいたが、その後は帰国。再び金を稼ぎにやって来たという。しかし、客はほとんどつかないようだった。

実はこの頃、タイの女性たちのほとんどは東京郊外の町田にあるホテル街のほうに流れ込んでいたのだが、彼女はその波に取り残されてしまったようだ。

新大久保をしばらく歩いていたが、コロンビアの女たちもいない。コロンビアの女たちは池袋の方に移動している。

しかし、こちらの方は2002年4月に警察の手入れがあって、多くの売春女性が一斉に逮捕されている。今は売春女性も警戒して裏通りに場所を移したようだが、最近は頻繁に警察がパトカーで見回りをしている。

知り合いの娘によると「もしかしたら、もう一度近いうちに警察が私たちを捕まえに来るかもしれない」と言っていた。

警察の取り締まりは頻繁なのに、客は景気が悪化でほとんど寄りつかない。とすれば、いずれにせよ日本から外国人売春婦が減っていくのは仕方がないのだろう。

ブッシュ大統領が日本を人身売買国家だとして糾弾

これを読むと、すでに2002年頃は日本の不況が外国人女性を追い詰めていたことが分かります。ちょうどこの頃、外国人女性を追い詰めていたもうひとつの問題がありました。それは空港の警備の強化です。

2001年9月11日、アメリカは同時多発テロの激震に見舞われたのですが、このテロには民間の航空機が使われたので、空港の警備はかつてないほど強化されていきました。

売春女性はテロリストではないのですが、偽造パスポートを使っていたり、貧困国の女性であるにも関わらず、何度も外国を往復していることから、非常に不審な人物としてマークされることが多くなっていきました。

この頃、フィリピン女性は年間約8万人が日本に来て歓楽街で働いていました。

彼女たちは、主にフィリピン・パブと呼ばれる飲み屋で働いていたのですが、強制売春させられていた女性も多くいました。これがテロリストを追う過程で、アメリカ側に認識されるようになったわけです。

一方で、ちょんの間と呼ばれる場所でフィリピン人以外の外国人女性が売春をしている実態も、やがて知られるようになっていきます。

町田の小さな売春地帯はすでに火事で燃え落ちていましたが、それでも横浜の黄金町のような場所はまだ何とか生き残っていました。

こういった流れの中で、2005年にはブッシュ大統領が日本を人身売買国家だとして糾弾する事態になったわけです。

この声明の後、日本政府はいよいよ本腰を入れて、売春する外国人女性を摘発をするようになります。

外国人の売春女性のストリート売春や、外国人女性がやっていた「ちょんの間」と呼ばれる場所での売春ビジネスは、これをもって終焉を迎えます。

古いタイプの売春として記憶されることになっていく

小説『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン』は、そういった外国人女性を巡る国際情勢の中で、外国人女性の行うストレートな売春ビジネスが潰える最後の瞬間を切り取ったものになっています。

売春は完全に壊滅させることはできない人類最古のビジネスであり、売春地帯が壊滅したとしても売春ビジネスそのものが世の中から消え去ることはありません。

だから、警察当局がどんなに苛烈な摘発をして売春地帯を叩きつぶしたとしても、日本のアンダーグラウンドでは今でも外国人女性が売春ビジネスをしています。

しかし、すでに外国人女性の売春は、現場から見ると「傍流」です。現在は、日本のアンダーグラウンドで売春をしているのは、再び日本女性がメインに戻っています。

20年経ち、不況で外国人女性が出て行った後、不況で生活苦に落ちた日本女性が売春の現場に戻ってきたわけです。

売春地帯はあからさまにセックスを売る場所であり、こういった場所は常に近隣から激しい排斥運動を起こされます。歓楽街は警察の監視と指導が非常に強い場所です。

2021年には尼崎の『かんなみ新地』が閉鎖されたのも記憶に新しいのではないでしょうか……。

現代の売春の最前線はインターネットに移っており、売春地帯という存在はなくなりはしないものの、趨勢はインターネットの出会い系に譲ることになります。

『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン』で描かれた小さな売春地帯の光景は古いタイプの売春として記憶されることになっていくはずです。時代は移り変わり、売春地帯も叩きつぶされ、やがては歴史の闇へと消えていきます。

すでに町田・青線地帯は跡形もありません。ここに戦後から続いていた小さな売春地帯があったというのは、もう忘れ去られつつあります。そして、1990年代から異国の女性たちがいたことも、もう誰も覚えていないのかもしれません。

ここで知り合った異国の女たちがどうなったのかは、私にも分かりません。

しかし、今も懐かしく彼女たちの顔を思い浮かべることができます。思い出深く、忘れられない女性のひとりです。この小説は物語自体はフィクションですが、登場人物は実在の彼女をモデルにして描いています。

ご関心のある方、どうぞお読み下さい。

『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン(鈴木 傾城)』
『町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン(鈴木 傾城)』

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

ブラックアジア書籍カテゴリの最新記事