どん底(ボトム)にまで落ちても、まだギャンブルに一縷の望みを託す人たち

どん底(ボトム)にまで落ちても、まだギャンブルに一縷の望みを託す人たち

よく、どこかの会社の経理の人間が会社の金を横領して事件になるが、逮捕されたときその多くが「ギャンブルに使った」と横領の動機を述べる。ギャンブル依存者を見たことがない人たちは「本当はどこかに隠しているのではないか」と邪推するのだが、依存者は本当に100万円でも200万円でもギャンブルで吹き飛ばす。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

それでもギャンブルにハマった労働者はやめない

神奈川県横浜市中区にあるドヤ街「寿町(ことぶきちょう)」は、東京の山谷や大阪の西成(あいりん地区)と並んで日本三大ドヤ街のひとつであると言われているのだが、規模的には一番小さくて凝縮されている感じがする場所でもある。

ここはもう労働者の街ではなく、福祉の街となっている。

昼間に歩くと高齢者しか目に付かないほど高齢者だらけで、しかもみんな足や腰を悪くしていて杖を突いて歩いていたり、手押し車で歩いていたり、車椅子だったりする。労働者が老いてこの街に捨てられているような、そんな光景である。

コロナ禍の真っ只中にある今、どうなっているのだろうとフラフラと歩いて見た。

以前は営業していた飲み屋が潰れていたり、かつてのホームレスの溜まり場だった労働福祉会館が「寿町健康福祉交流センター」みたいなセンターになってやたらときれいに整備されていたりしていた。

違法のノミ屋もひっそりと営業している。さらに、全台1円パチンコの「MARINE」や、ボートピア横浜(ボートレースチケットショップ横浜)のような店も健在で、多くの高齢労働者が出入りしていた。

パチンコ屋「MARINE」に入ってみると、金のないはずの高齢者が無表情でひたすら台を見つめて玉の動きを追っている。彼らのほとんどは生活保護で暮らしているので、生活保護の金がパチンコ屋に流れていることになる。

ドヤの住民はギャンブルで身を持ち崩した人も多い。

大阪あいりん地区でも、パチンコ屋やノミ屋が林立して労働者の金を吸い取っているのだが、どれだけギャンブルが自分の人生を破綻させる元凶だとしても、それでもギャンブルにハマった労働者はそれを止めることはない。彼らを見ていると、ギャンブル依存の地獄は底なしであることが分かる。

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人生の最も重要な時にギャンブルで消耗する依存者

ギャンブルは、それがどんなものであれ強烈な依存を生む。その依存の強さはドラッグに比類する。

日本はすでに公営ギャンブルから違法ギャンブル、あるいは合法なのか違法なのか分からないようなパチンコのようなギャンブルまでが野放しとなっており、こうした環境が約320万人の依存者を生み出している。

依存者にとってギャンブルはドラッグだ。一度それに囚われてしまうと、それをやらないでやり過ごすということができない。衝動が抑えきれない。空腹の人の目の前に食事を並べているのと同じで、依存症になるとなりふり構わなくなってしまう。

その結果、依存者はどんどん金をそこに注ぎ込み、足りなくなると借金をしてまでギャンブルにはまっていく。貯金を食いつぶし、友人に金を借り、親に金を借り、どうにもならなくなってもまだ止められない。

嘘をついてまで金を借りる。そして、生活が破綻するまでその状況は続く。

よく、どこかの会社の経理の人間が会社の金を横領して事件になるが、逮捕されたときその多くが「ギャンブルに使った」と横領の動機を述べる。

ギャンブル依存者を見たことがない人たちは「ギャンブルに使ったと言いながら、本当はどこかに隠しているのではないか」と邪推するのだが、依存者は本当にギャンブルで100万円でも200万円でも吹き飛ばす。人によっては億単位の金をギャンブルで蕩尽してしまう。

普通の人がギャンブルを覚えるのは20歳頃が一番多いので、20歳でギャンブルを覚えて依存症になったら大抵は40歳頃までには人生が破滅する。多くのギャンブル依存者は人生の最も重要な時にギャンブルで消耗して終わる。

40歳あたりで人生が破滅したら、そこから人生をやり直そうと思っても、なかなか難しいし厳しい。そもそも、人生がやり直せるかどうかも難しい。

そういう人が、家族や友人や同僚や会社に迷惑をかけ続け、見捨てられ、自らもすべてを捨てて流れ者となり、そして最後に行方不明となる。そうした行方不明者の少なからずは、山谷や西成や寿町のようなドヤに流れ込む。

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有り金をすべてそこに注ぎ込むだけに生きる

ギャンブル依存症になると脳が変質する。長くギャンブルをやって、その興奮がずっと維持されると、脳がギャンブルしている状態に最適化されるようになり、朝から晩までその興奮を求めるようになっていく。

イライラしながら台にしがみつき、ストレスを溜めて溜めて貯め続け、ある瞬間に大勝ちして爆発的な快感を得る。それは痺れるような快感だ。そして、その興奮のためにはすべてを犠牲にしても何とも思わなくなってしまうのである。

いったん脳がギャンブル依存に作り替えられると、もう意思の力ではどうにもならなくなっていく。

分別の付いているはずの大人が、すぐにバレるのを承知で自分の会社の金を横領してそれに注ぎ込んでしまうのも、もはや自分で自分をコントロールできなくなっているからだ。

ギャンブル依存症になるというのは、有り金をすべてそこに注ぎ込むだけに生きる「奴隷のような存在になる」ということなのだ。

そんな危険なものが日本の社会で野放しにされたままであり、さらにカジノまでできるのだから、長い目で見ると、日本社会が憂慮すべき状態になってしまうのは誰もが指摘するところでもある。

ただ、わざとカジノを辺鄙なところに作り、そこをカジノ特区として囲い込んで隔離し、一般社会にはむしろ街に溢れたギャンブルを徹底的に取り締まっていくという方向であれば、それはむしろ正しい。

世の中はどんな時代でも一定数のギャンブラー気質の人間がいて、彼らは公営だろうが闇だろうがギャンブル依存に堕ちる性質がある。

こうした人間たちを囲い込んで、一般社会でのギャンブルは認めない方向に持っていければ、特にギャンブルをしたいと思っていない一般の人をギャンブルに巻き込むのを防止できる。

しかし、街中にあるパチンコのようなギャンブルを放置したまま、新たにカジノまで作ってギャンブル国家にしてしまうのであれば、日本には未来はないように思う。しかし、政府はどうしてもカジノを作りたいと思っており、その実現に奔走している。

政治家が必死に何かをしたい時、そこには利権がある。依存者が増えて多くの人の人生を破壊することは、利権を追う政治家の頭の中にない。

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ギャンブルを取り上げるのは、夢と希望を取り上げるのと同じ

ギャンブルはどこの国からも消すことはできない。先進国だろうが後進国だろうが、ギャンブルをする男たちの姿は恒常的に見られる。何も持たない貧困層がなけなしの金を持ってギャンブルに高じる姿はありきたりな光景だ。

普通に働いていても金持ちになる確率はゼロに近い。しかし、ギャンブルは違う。確率的には少なくても「一発大逆転を成し遂げられるかもしれない」という一縷の望みがそこにある。

場合によっては、一瞬にして大金持ちになるかもしれない。

学歴も、職歴も、知的レベルも、容姿も、年齢も、犯罪歴も、性別も、人種も、出自も、まったく何も関係ないのがギャンブルだ。ただ「運」さえ良ければ、大金持ちになれるかもしれない。

毎年、当たりもしないのに「買わなければ当たらない」と宝くじを買い込む人たちもいるが、ギャンブル依存症はその積極版であると言える。「打たなければ当たらない」ので、彼らはギャンブルをするのである。

「もしかしたら、勝てるかも。次こそ勝てるかも」と、彼らは淡い希望をそこに見出して、祈りながら金を賭ける。ギャンブルにのめり込んでしまった人からギャンブルを取り上げるのは、夢と希望を取り上げるのと同じなのである。

ギャンブルにハマった夫を止める妻がしばしば家庭内暴力の対象になるのは、自分から夢や希望を取り上げる妻が憎いからだ。自分の夢を叶えてくれるかもしれないギャンブルよりも、絶望しかない現実に引き戻す妻の方が憎い存在と化す。

ギャンブル依存症になると、もはやまわりの人がそれを止めようと説得しても失敗する確率が高い。依存症の専門医に診せても治るかどうかは分からない。ギャンブルとはそれほど人間を狂わせてしまうものなのだ。

寿町をフラフラして私が見たパチンコ屋の高齢者たちは、どん底(ボトム)にまで落ちてしまっても、まだギャンブルに一縷の望みを託している人たちだった。私ものめり込む性格である。若くしてギャンブルにハマっていたら、彼らと同じになっていた可能性は十分にあった。

他人事ではないものを私は感じた。

『やめられない ギャンブル地獄からの生還(帚木 蓬生)』

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