あなたは困窮した人を助けたことがないというのは間違い。立派に助けている

あなたは困窮した人を助けたことがないというのは間違い。立派に助けている

ホームレスの人を見かけたからと言って、誰も助けずに通り過ぎるのは、人々は冷たいからではない。人々は他人事のように思っているからではない。ホームレスの人を助けるとしても、ホームレスはひとりではない。助けても助けてもキリがなく、自分の力ではどうしようもない。貧困に苦しむ人たちを見て「何とかしてあげたい」と思っても、自分にできることは限られている。しかし……(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

困窮しているからと言って誰かが助けてくれるわけでもない

北九州に住むある男性が病気で仕事もできなくなって生活保護で暮らしていたが、自立を強く促されて生活保護を打ち切られ、「おにぎりが食べたい」とノートに書き記しながら衰弱死したという事件があった。

北九州にも当然ながらコンビニは大量にあるし、東京と変わらないほど飲食店の店がある。買う環境はあった。そして、彼が食べたかった「おにぎり」はそれこそ100円程度のものだっただろう。

しかし、彼は電気もガスも水道も止められ、命の綱であった生活保護すらも打ち切られて何もないまま放り出され、100円のおにぎりですらも買うカネもなくなっていた。そんな中で、この男性は死んでいった。

行政も彼を見捨て、誰も彼を助けなかった。

世界第三位の経済大国である日本にはモノが満ち溢れている。リアルの店舗でも、インターネットのショッピングサイトでも、無限とも思える商品が売っている。ふらりと入ったコンビニでも、災害や棚卸しでもない限り商品は常に並べられている。

しかし、いくら日本に大量の商品が溢れているとしても、もし所持金がゼロであれば、それらはすべて「手に入らないモノ」である。

金がなければ何もないも同然だ。金がなければ何も手に入らない。水道も止められていたのだから、それこそ水の一滴ですらも飲むことができない。

この男性ほど極端ではないにしても、日本には生活に困窮した人たちは大勢いる。コロナ禍の中で自殺者も増えているのだが、自殺に至らなくても餓死寸前にまで追い込まれている人は多い。

しかし、困窮しているからと言って誰かが助けてくれるわけでもない。たとえば、あなたは困窮している見知らぬ人を見かけて、自分の給料を分けて上げたり、公共料金を負担して上げたりするだろうか?

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人は誰でも自分の人生を生きるのに精一杯だ

街に出ると、貧困に苦しんでいる「見知らぬ他人」を私たちはいくらでも見つけることができる。ホームレスを見かけることもあれば、深夜のマクドナルドで寝ている若者を見ることもある。

ニュースは、仕事もなく貧困に落ちた若者たち、奨学金という名の借金を抱えて苦しんでいる若者、ブラック企業で使い潰されて鬱病になって働けない若者、非正規雇用でしか雇われなくてギリギリの状態で生きている女性の話題が次々と上げられる。

若者や女性だけでなく、リストラされて苦境に落ちた中高年も、ケガや障害を抱えてどうしようもない人や、年金では暮らしていけない高齢者もいる。

そうしたニュースに接して、あなたは「見知らぬ彼ら」に自分の貯金を「これを使って下さい」と差し出したことがあるだろうか。あるいは、彼らを自分の住まいに招き入れて、「好きなだけここで暮らして下さい。冷蔵庫の中のものも好きに食べて下さい」と言うだろうか。

恐らく、そうしないはずだ。

「見知らぬ彼ら」ではなく、それが親戚の誰かであるとか、友人であるとか、顔見知りの誰かであったとしても同じだ。多少の援助金は出しても、彼らの生活を丸ごと面倒を見て上げようとは思わないはずだ。

なぜか。

いくら貧困が広がっていて、目の前に貧困で苦しんでいる人がいたとしても、あなたには「彼らを助ける義理」はないし、そもそもそんなことをしていたら自分の生活が破綻してしまうからである。

人は誰でも自分の人生を生きるのに精一杯だ。誰もで他人の生活を丸ごと抱えられるほどの給料や貯金があるわけではない。そもそも、貧困に苦しんでいる人の誰かひとりを助けたとしても、他にも貧困に苦しんでいる人はたくさんいる。

日本は平均収入186万円以下の「アンダークラス」層は929万人もいる。あなたが自分の貯金を投げ打って誰かを助けたとしても、それは焼け石に水である。

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自分が行政の窓口に行かない限り、誰も助けてくれない

コロナ禍で失業者も増え、ホームレスも増えた。街でホームレスの人を見かけたからと言って、誰も助けずに通り過ぎるのは、人々は冷たいからではない。人々は他人事のように思っているからではない。

もしホームレスの人を助けるとしても、ホームレスはひとりではない。助けても助けてもキリがなく、自分の力ではどうしようもないからだ。貧困に苦しむ人たちを見て「何とかしてあげたい」と思っても、自分にできることは限られている。

貧困層の救援をボランティアでするにしても、一年365日すべてをボランティアで埋めるわけにもいかない。

なぜなら、目の前のひとりひとりを助けていると自分もまた貯金や仕事を失って同じ立場になってしまうからである。貧困の人たちを直接的に助けないのは、そういうことなのだ。

逆に言えば、あなたが貧困に落ちたとしても誰かが助けてくれるわけではないということでもある。

あなたが怪我をしたり病気になったりして生活が困窮してしまったら、顔見知りの人たちはもちろん深く同情してくれるだろう。心配もしてくれるだろう。しかしほとんどの場合、赤の他人にできるのはそこまでだ。

親兄弟は「ある程度」は金銭援助なり生活支援なりをしてくれるかもしれないが、それでも生活を丸ごと面倒見てくれるほど余裕があることはない。よほどの資産家でもない限り、できることは限られている。

行政の支援を受ける、生活保護を受けるということですらも、基本的には「自分で」できなければ誰も手助けしてくれない。あなたが生活困窮したら、急に誰かが目の前に現れて、「こうしたら良い」とアドバイスをしてくれるわけでもない。

自分が行政の窓口に行かない限り、誰もあなたを助けてくれることもなければ、気にかけてくれることもない。

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あなたは「貧困層を助け続けてきた」とも言える

つまり、「貧困」という現象がそこにあって目の前に実際に絶望的な困窮状態にある人がいても、私たちができることはほとんどない。あったとしても限られている。貧困に苦しむ人を「直接的」に助けることは現実的ではないのである。

すべての人は、自分の生活を成り立たせるのが第一であり、常にその根幹部分に焦点が当たっていなければならないのだ。当然、あなたも自分の生活を成り立たせることを何をおいても最優先しなければならない。

では、あなたは自分のことばかり考えていて、貧困層を助けていないということのか? いや、そんなことはない。実は、あなたもまた貧困層を助けている。それも、長きに渡ってあなたは「貧困層を助け続けてきた」とも言える。

どういうことか?

あなたは税金を毎月毎月「高い」と言いながら支払ってきているはずだ。区役所で働く公務員たちの給料も、国会で威張り腐っている政治家の給料も、生活保護の原資も、すべてはあなたが支払っている「税金」で成り立っている。

貧困層に直接的に関与して何らかの救済や支援を行うのは行政の仕事だが、その行政はあなたが支払った「税金」によって活動することができている。つまり、あなたは税金を支払うことによって、立派に貧困層を助けているということに他ならない。

「自分は貧しい人を助けられていない」と考えるのは間違いなのである。

あなたは税金を支払うことによって、社会に貢献しており、貧しい人たちの救済や支援を「間接的」に手伝っている。

だから、社会に貧困層がいて見殺しにされていると思うのであれば、その税金で適当な国家運営をしている政治家や、天下りで税金を食い物にしたり高給をもらいながら仕事をしないような官僚に改善を要求すべきであって、自分を責める問題ではない。

税金をしっかりと払っているのであれば、あなたは困窮している人に対して大きな支援をしていると胸を張ってもいい。貧困層が苦しんでいるのであれば、税金を割り振っている政治家や官僚のやり方がおかしいのだ。

自分の生活は自分で守り税金を支払う。自分のことは自分で面倒を見る。それこそがあなたに求められていることであり、本当の意味の人助けでもある。

『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち(鈴木 傾城)』

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