私たちは優しさや、相互理解や、のんびりとした幸せな時間をかなぐり捨てた

私たちは優しさや、相互理解や、のんびりとした幸せな時間をかなぐり捨てた

グローバル化が加速していく中で、私たちは優しさや、相互理解や、のんびりとした幸せな時間をかなぐり捨てた。とにかく自分が豊かになることばかりをめざし、自分の権利だけを主張する社会を築き上げた。いくら競争しても勝てないのに、ずっと競争させられる時代に入った。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

社会全体がどんどん非情になっていく

あなたは睡眠が足りているだろうか? 精神的にも肉体的にも疲れ果てていないだろうか? 2018年に厚生労働省が『国民健康・栄養調査』で出した統計によると、日本人の約21.7%は「休養が十分に取れていない」と報告されている。

日本人は、男性の男性36.1%、女性39.6%が睡眠時間「6時間未満」である。特に30代、40代の働き盛りは睡眠時間が足りない人が多い。仕事でかなり無理をしているというのが統計で現れている。

日本人は恒常的に睡眠時間が短いのだ。「俺は昨日3時間しか寝ていない」「徹夜で仕事した」というのは、ザラにある。だからこそ、日本では過労死が続出しているのだが、過労死しなくても日本人は常に疲れ果てている。

無理がたたると、どんどん精神的にもおかしくなり、身体は疲れ果てているのに逆に眠れなくなってしまったりする。逆に昼間に極度の眠気に襲われて自分自身をコントロールできなくなったりする。

現代人の必須の錠剤は精神安定剤であったり睡眠剤であったりする。眠れないと不眠を訴え、無理やり寝るために人々は切にそれを求める。目を覚ますために薬を求め、死んだように眠る薬を求め、それを交互に使い分けてボロボロになっていく。

なぜ、そこまで追い込むのか。そこまでしないとならないほど、今の社会は激しい競争社会となっているからだ。子供の頃は学業で、大人になれば年収で、同級生や同僚と激しく競い合って、蹴落とし合う。負ければ大きな差をつけられる。

だから、何としてでも勝ちたいという心理に追いやられ、社会全体がどんどん非情になっていき、殺伐としていく。

かつての日本企業は年功序列の終身雇用だったから、同僚はみんな仲間だった。今は実力主義社会なので同僚は敵だ。同僚を蹴落とさないと、自分が蹴落とされる。このような方向に社会全体が向かっていて、止まらない。

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自分の生活から余裕が消えていくのが競争社会

実力主義社会とは競争社会でもある。その競争社会で勝ち抜くにはどうすればいいのか。まずは、誰よりも向上心を持たなければならず、また誰よりも長く働かなければならない。

休日も返上して働き、いつでも連絡が取れるようにして、休みの間でも連絡があれば、やっていることをすべて放り出して仕事に向かうくらいでないとならない。

皮肉なことに、豊かになろうとすればするほど、そして少しでも将来のために備えようと思えば思うほど、自分の生活から余裕が消えていく。

本当は優しさや相互理解を求めているのに、競争社会の中では勝ち上がろうとすればするほど非情で、相互不信の方向に突き進んでしまう。

もちろん、食事もおいしいものをゆっくりと味わう暇などあろうはずがない。適当なジャンクフードを無理やり口の中に詰め込み、コーヒーで極限まで自分の脳を覚醒させながら仕事を優先させる。

コーヒーで足りなければどうするのか。とことんカフェインをぶち込んだエナジードリンクという存在があるではないか。そんなものをがぶ飲みして労働に向かうのだ。

「何かがおかしい」

そのように誰もが感じているのだが、競争社会で激しいバトルを繰り広げながら生きている以上、多くの人はそこから逃れることはできない。

当然、このような生き方を続けていれば心身共に疲弊していく。激しいストレスにまみれて神経が刺々しくなる。

そこで、現代人は夜になっても緊張と興奮が冷めない心を、睡眠薬を使って無理やり眠りに就かせることになる。そうでもしないと眠れないからだ。

しかし、朝になって疲れは残っている。だから朝はまたもやコーヒーや栄養剤をガブ飲みしてエンジンをかける。日本人のみならず、グローバル化に飲まれていった国々は、みんな似たような生活パターンになっていく。

余裕を失い、ひたすら働く。

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タイも、目に見えてせわしない国になっていった

私は若い頃から仕事らしき仕事はほとんどしないで好きに生きてきた。同い年の知り合いが猛烈に働いている頃、私はタイのバンコクや、ハジャイや、スンガイコーロクなどでのんびり過ごしていた。

あの頃のタイの光景は今も私の心の中に深く刻み込まれている。1980年代後半のタイは、バンコク中心部から少しでも外れると、途轍もない田舎の光景がずっと広がっていて、人々は信じられないほどのんびりしていた。

確かに、あの頃のタイは今とは較べられないほど貧しかったかもしれない。しかし、人々は別に貧しさを気にすることもなく、ゆったりとしていたように見えた。暑い国なので、人々は昼間は外を出歩かない。

出歩くとしても、異常なまでにのんびり歩いている。後で知ったのだが、せかせかと歩くと体温が上がって熱中症になりやすいので、わざとゆっくり歩いていたのだ。

たまに、日本では想像できないような激しいスコールも来る。そんな時はどうするのか。人々は、他人の家の庇(ひさし)に避難し、何時間もじっと雨の滴を見つめていた。みんな、それほどのんきな生活をしていた。

子供たちは雨が降ったら、素っ裸になってスコールの中で嬉々としてシャンプーし、石鹸で身体を洗っていた。雨がシャワーだった。そんな光景を見て、私は日本とタイの時間の流れの違いを肌で感じていたものだった。

しかし、タイも1990年に入ると目に見えてせわしない国になっていった。1980年代の後半から、タイは工業化の時代に突入していき、バンコクは年がら年中、工事ばかりしていて、交通渋滞もまったく緩和されない公害都市と化した。

タイも資本主義に組み入れられて、微笑みの国の人々から心の余裕が消えていったように見えた。

歓楽街パッポンの女性たちも、どんどん金儲け重視主義、効率主義になっていった。昔のようにだらしのない男とだらしのない女が、バーの片隅で何時間も時間をつぶすような光景が消えていったのもこの頃だった。

資本主義が入り込んで、競争・効率の時代になっていくと、ここまで社会の雰囲気が変わってしまうのかと、私は驚きと悲しみが止められなかった。

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一生懸命に働いても見返りはほとんどない

資本主義。高度情報化社会……。世の中が効率重視になっていくと、人間もまた自分の人生をどんどん効率化させていかなければならなくなる。世の中のスピードに合わせないと、取り残されてしまうからだ。

のんびりしている暇はない。常に、追い立てられて、必死になって時代に食いついていかなければ「負け犬」にされてしまう。しかし、無理に無理を重ねて生きていくのだから、誰しもがどこかで力尽きてしまう。

だんだん登る山が急勾配になり、足が前に出なくなってしまうのだ。そして、今や多くの人が「なぜ、こんなことになっているのか」と疑問に感じながら、もがくようにして生きている。

極限に向けて突き進んでいく時代は、いずれどこかで崩壊していくことになる。モノには限度があって、社会がどんなにそれを求めても、人間性が崩壊するまで効率化を追求できないからである。

私たちは人間性が崩壊する前に、「本当にこれでいいのか」と立ち止まって考えるべき時期に来ている。もう、やみくもに前に進もうとしても、それ自体が社会全体を暴走させることになるからだ。

グローバル化が加速していく中で、私たちは優しさや、相互理解や、のんびりとした幸せな時間をかなぐり捨てた。とにかく自分が豊かになることばかりをめざし、自分の権利だけを主張する社会を築き上げた。

この競争社会は、多くの人間を「経済格差」で区分けし、持てる者と持たざる者を極大化させる局面に入っている。いくら競争しても勝てないのに、ずっと競争させられる時代に入った。

格差社会が極大化すると、必死になっても見返りはほとんどなくなる。睡眠時間を削り、命を削ってフラフラになって働いても見返りがない。当然だ。持てる者がすべて持っていき、わずかなパイを大勢で分け合うことになるからだ。

そんな中、2020年はコロナ禍に翻弄されたのだが、このコロナ禍は格差をさらに広げている。そろそろ、多くの人が「格差社会が極大化した社会では、一生懸命に働いても見返りはほとんどない」と気付いてもおかしくない時代に入っている。

私たちはどこに向かうのだろうか……。

『睡眠こそ最強の解決策である(マシュー・ウォーカー)』

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