トランプの敗北。グローバル化と反グローバル化の戦いは、これから始まる

トランプの敗北。グローバル化と反グローバル化の戦いは、これから始まる

ドナルド・トランプは公然と移民の排斥を訴え、グローバル化よりもアメリカの労働者の権利を守ろうとし、アメリカに製造業を戻そうとし、アメリカ人の国益を最優先に考えた。普通のアメリカ人にとってそれは良かったかもしれないが、エスタブリッシュメントにとっては明らかに邪魔な存在だった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

バイデンは、明白にトランプ大統領の路線を否定する

ドナルド・トランプ大統領は、際限なく突き進んでいくグローバル化に「待った」をかけた初めての大統領だった。

不法移民に「出ていけ」と言い、メキシコとの国境に壁を建設し、言葉狩りと化したポリティカル・コレクトネスを巻き戻し、雇用も「アメリカ第一」を標榜して、外に出ていった雇用をアメリカに戻そうとした。

しかし、2020年の大統領戦はジョー・バイデンが制した。

アメリカは大統領が変われば政策が劇的に転換する。特に、共和党から民主党の大統領、民主党から共和党の大統領に代わった時は、今まで進められていた政策の全否定もあり得る。

ジョー・バイデンは、明白にトランプ大統領の路線を否定することになる。すなわち、保守よりもリベラルの政治、不法移民に寛容な政治、協調による政治、穏便な政治、多文化共生を目指していくことになる。

そして、トランプ大統領が止めていた「グローバル化」を復活し、推進していく。そもそも、4年前にトランプ大統領が勝ちあがったというのはエスタブリッシュメントにとっては「エラー」だったのだ。本当はヒラリー・クリントンが勝つはずだった。

エスタブリッシュメントにとってはトランプ大統領の4年間は「無駄な4年間」でしかない。アメリカは音を立ててグローバル化のエンジンをかけて、世界をグローバリズムで覆い尽くしていくことになる。

グローバル化というのは、ヒト・モノ・カネの自由化を目指したものだ。最終的には「国境」という概念を無力化し、破壊し、消滅させる。

もっとも「みんな自由に好きなところに行って、好きに暮らせるのであれば、それはそれでいいのではないか」と考える人もいる。

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グローバル化によって文明の衝突が国の中で発生した

まだグローバル化の問題点がよく理解されていなかった頃、ほぼすべての人は「自由」という言葉の明るさに惑わされて「自由になるのではあればいいではないか」と考えた。しかし、この自由はワナだった。

何が問題だったのか。

まずは、人の流れは「一方的だった」ということだ。貧しい国と豊かな国があったら、人々は貧しい国をしっかりと地道に豊かにしていこうと考えるのではなく、手っ取り早く「豊かな国に移住しよう」と考える。

逆に、豊かな国からわざわざ貧しい国、生活環境が過酷な国、戦乱に明け暮れている国、宗教戒律の厳しい国に向かう流れはほとんどなかった。誰も好き好んで生命の危機も脅かされるような国には行きたくない。

もちろん、途上国が好きだとか、そういう国の方がスリルがあって面白そうだという人間もいて、豊かな国から貧しい国に移住する人も皆無ではないのだが、決して大きな流れにはならない。

その結果、人の流れは「貧しい国から豊かな国」という一方的なものとなっていく。実際、EU(欧州連合)でそれが起きた。ヨーロッパの人々は中東やアフリカに移住しようとは思わなかったが、その逆は大勢いた。

そして、貧しい人々が大量に入り込んだことによって、彼らを税金で養うことになったり、街がホームレスや貧困層で溢れたり、治安が悪化したり、地域が移民に乗っ取られるようなことが次々と起き始めたのだった。

人はそれぞれ地域ごとに宗教が違い、文化が違い、思想が違い、食生活が違い、常識が違い、生き方が違う。そのため、人の行き来が自由になると、異質同士がぶつかり合って、互いに譲らずに対立が広範囲に発生する。

文明の衝突が国の中で発生する。

それが起きたのがEU(欧州連合)だった。アフリカや中東からイスラム教徒の移民が大量に流れ込んで来たことによって、キリスト教国だったEU各国で宗教の対立が引き起こされた。

EUのそれぞれの国になだれ込んだ移民たちは、決して「郷に入っては郷に従う」ような考えはなかった。その国に、どんな文化や歴史があっても関係がない。

「自分たちはイスラム教徒なのだから、イスラム教の文化で生きる」と宣言し、相手の文化には決して融合しなかった。

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多国籍企業を所有し、動かしている人々

ヒト・モノ・カネを自由にするのがグローバル化である。ヒトが自由に行き来できるようになったら、途上国の人々が豊かな国に殺到する。グローバル化はそれを止めることができない。

その結果、先進国に途上国の人々が殺到して、先進国の文化・歴史・財政が破壊されていく。そして、先進国の人々の賃金もまた下がっていくことになる。なぜか。途上国からやってきた人々は、安い賃金で働くからである。

実は、資本主義が常にグローバル化を志向しているのは、ここに理由がある。

資本主義に最も最適化されたのは「企業」という組織だが、その中で最も成功していて莫大な利益を計上しているのが多国籍企業である。この多国籍企業を所有し、動かしている人々がエスタブリッシュメントである。

エスタブリッシュメントは多国籍企業の所有者(大株主)、そして経営者によって成り立っている。さらに多国籍企業は自らに都合の良い政策を実現するために政治家を使うので、政治家もまたエスタブリッシュメントの一員となる。

こうした資本主義の上位に属する人たちは、常に「利益の増大」「資産の極大化」を考えている。さらに多国籍企業間の競争もあって、コストの削減を考えている。その結果、労働者の賃金は常に「最低賃金」になるように設定する。

場合によっては、最低賃金以下で働く人員を探してくる。大きな企業がグローバル化していくのは、自国の労働者よりも安い賃金で働く人間を途上国で見つけるためであり、さらにグローバル化によって移民を入れたがるのは、自国でも安く働く労働者を確保するためである。

企業は「コストを下げて商品やサービスに価格競争力をつけ、コストを下げて利益率を上げる」ことが至上命題になって動いているので、国の中が移民だらけになるのは、むしろ「安い労働者が増える」という点で望ましいと思っている。

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グローバル化と反グローバル化の戦い

企業が吸い上げた利益は、自分たちの資産として跳ね返る。資産を増やしたければ、よりグローバル化を進めればいいということになる。そのため、現代の資本主義の形ではグローバル化を止めることができない。

格差もどんどん広がっていくのだが、そうなればなるほど、自分たちは世界に君臨できるのだから、実のところエスタブリッシュメントにとってみれば、そんなに悪い話でもない。

だから、EU(欧州連合)の内部で、どんなに移民大量流出による対立・衝突・治安悪化・排斥・テロが起きてもエスタブリッシュメントは止めることがなかった。反移民の政党が出てきても多文化共生の強制を止めることはなかった。

しかし、よりによって現代資本主義の総本山であるアメリカで、グローバル化を止めようとする異端の大統領が2016年に選出された。それがドナルド・トランプという存在だった。

ドナルド・トランプは公然と移民の排斥を訴え、グローバル化よりもアメリカの労働者の権利を守ろうとし、アメリカに製造業を戻そうとし、アメリカ人の国益を最優先に考えた。

普通のアメリカ人にとってそれは良かったかもしれないが、エスタブリッシュメントにとっては明らかに邪魔な存在だった。だから、ドナルド・トランプは4年間に渡って、常にマスコミに攻撃され、批判され、引きずり下ろされようとしていた。

グローバル化を進めることによって恩恵を受けるエスタブリッシュメントにとって、ドナルド・トランプというのは「邪魔な存在」だったのである。だから、エスタブリッシュメントにとっては、どんな手を使ってでもトランプ大統領を敗退させる必要があった。

そして、2020年11月。エスタブリッシュメントは二期目を狙うドナルド・トランプを阻止することに成功した。

ジョー・バイデンは決してトランプ政権の「保守政策」を継承しない。今までトランプ大統領によって邪魔されていたグローバル化を、心おきなく進めていくことになる。

2021年から、再び大きなグローバル化の波と、多文化共生の強制が、あからさまな形で進められていくことになる。

しかし、グローバル化による問題を認識した人々は、果たして素直に押しつけられるグローバル化を受け入れるだろうか……。グローバル化と反グローバル化の戦いは、これから始まるのかもしれない。

『グローバリズムが世界を滅ぼす(エマニュエル・トッド)』

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