アメリカ次期大統領は、湧き上がる社会不安の中でうまく舵取りができるか?

アメリカ次期大統領は、湧き上がる社会不安の中でうまく舵取りができるか?

アメリカはどちらが大統領になっても国民が割れ、世論が割れ、対立が激化する。すでに格差と貧困はアメリカでも隠し切れないほどの社会問題と化している。政治の混乱や対立が起きており、やりたい放題のリベラルに対して右派もまた先鋭化している。予期せぬことも起こり得る。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

退化したのではなく、進化した

コロナ禍によって多くの企業はリモートワークを取り入れ、その中で試行錯誤するようになっているのだが、これによって社会の高度情報化はますます加速して進んでいこうとしている。

社会はコロナ禍によって退化したのではなく、進化したのだ。この社会の変化を把握していない人は、次の時代に生きていけないかもしれない。

コロナ禍がもたらした高度情報化は、激しい勢いで社会の高度化・複雑化・専門化の3つを促していく。この3つが加速すると、今後も高度な学歴と知識を持っている人が有利に立ち、高給で雇用されるようになる。

逆に、それ以外は単純労働に落とされて不安定な身分と不満足な賃金となる。単純労働に落とされた多くの人は貧困に落ちる。そのため、貧困と格差はコロナ以後も解決するどころか、もっと激しく深刻になる可能性が高い。

すでに高度情報化に対応できない人は「企業」から見捨てられているのだ。この見捨てられてしまった人たちを、今は政府が各種の特別給付金・持続化給付金で支援しているところだ。

しかし、政府の救済は永遠に続くわけではない。いずれそれも止まる。それまでに高度情報化に対応できなかった人は、どん底(ボトム)に転がり落ちたまま貧困から逃れられなくなる。

貧困層が莫大な数で増えていくと、いずれ社会は彼らを救済できなくなる。そして、貧困層は「社会」からも見捨てられていく。

日本でも電気・ガス・水道のような大事なインフラをすべて止められて、ひっそりと餓死していく人たちの存在が珍しくなくなった。孤独死・貧困死が日本でも続発していることに危機感を感じる人も多い。

「いつ自分もそうなるのか分からない……」

人々は、そう思いながら暮らしている。ギリギリで生きている人たちは、変わりゆく社会の中で困窮の度を深めていく。

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ロングターム・キャピタル・マネージメント

2020年、中国発コロナウイルスは日本を含め、全世界に大きな暗雲をもたらした。今も世界はコロナに翻弄されている。これは、私たちには予期せぬ出来事であった。

しかし、2020年だけが特殊だったわけではない。過去を振り返ると、予期せぬ出来事が突発的に起きて社会が混乱した年が節目、節目で見つかる。

1997年のアジア通貨危機のときもそうだった。これは、ヘッジファンドのカラ売りがタイ・バーツに対して徹底的に行われた結果起きたものである。

それがドミノ倒しのようにロシア財政危機にまで発展して、アメリカ最大のヘッジファンドであったLTCM(ロングターム・キャピタル・マネージメント社)を吹き飛ばした。

巨額の資金を集めて運営していたLTCMの崩壊劇で、危うくアメリカでも金融崩壊が起こる一歩手前にまで追い込まれたが、FRB(連邦準備理事会)がこの一企業を救済して何とか事態の収拾を見た。

LTCMは、ノーベル経済学賞の受賞者を2人も抱えたアメリカ最高の頭脳を持ったヘッジファンドだったのだ。

もし世の中が読めるのであれば、世界最高の頭脳と資金を持っていたはずのLTCMが崩壊することはなかった。しかし、実際は誰も先を読むことができず、LTCMも世界中を巻き込んでつぶれていった。

理論は当てにならないし、推測はもっと当てにならない。それでも人々は将来を考えて何が起こるのか予測しようとするのだが、予期せぬ出来事が突如として襲いかかってきて何もかも押し流していく。

世の中は人々の想像を超えて、どんどん予期せぬ方向にねじ曲がっていく。だから、これからは幸せな時代年になるのか、恐怖の時代になるのか、誰にも分からない。

ただし、グローバル化や高度情報化がどんどん進めば、競争が激化して貧困層も増えるという社会現象は分かっている。貧困層が増えれば社会不安も増える。さらに、現代の資本主義そのものが、格差を絶望的なまでに拡大させていくものであるということも分かっている。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

超富裕層と超貧困層が生まれる

国民生活を破壊するまでのグローバリズムによって格差が拡大していくと、最終的には超富裕層と超貧困層が生まれる。もうとっくの前に、1%の富裕層と99%の貧困層に世界は分かれてしまったが、これがまだ進むのだ。

しかし、こうした現象は激しい不満と苛立ちがマグマのように沈澱する。そして、どこかの段階で臨界点を超えてしまい、「社会を変えなければならない」という怒りとなって爆発する。

止まらない抗議デモや内戦のような暴動が地の底から湧き上がるだろう。しかし、「何がきっかけとなり、いつ、どこから始まるのか」というのは予測もできない。恐らく、今の社会に生きる私たちが、想像すらしない形でそれは起きてくる。いったん爆発したら野火のように延焼していく。

世の中は、座して死を待つ人ばかりではない。死に物狂いで社会矛盾を破壊しようとする気運が必ず生まれる。

アジア通貨危機のとき、やはりインドネシアでも直撃を受けて大量の失業者を生み、暴動が激しく起きて長期独裁だったスハルト政権を打ち倒すほどのエネルギーが吹き上がった。

スハルトにとっては予期せぬ出来事だったかもしれない。しかし、予期せぬ激しい国民の抗議デモはマグマのように吹き上がって、当時の腐敗したインドネシアの社会システムをなぎ倒していった。

スハルト長期独裁政権がこのような形で崩壊するなど、その日まで誰も予測できなかった。しかし、腐敗したスハルト政権の社会の底で、怒りのエネルギーは沸々と煮えたぎっていたのだ。

社会矛盾が広がり、貧困と格差が苛烈なものとなり、上と下で社会が分離し、社会の底辺で「怒り」が生じた時、予期せぬことはいつでも起こる。

コロナによって全世界でGDP成長率がマイナスに落ちているが、今年から来年にかけて、どこかの国が突如として債務不履行(デフォルト)になるかもしれない。

資源が暴騰して生活基盤が破壊されるかもしれない。世界のどこかで要人が暗殺されるかもしれない。大規模なテロが再度起きるかもしれない。予期せぬことが起こりやすい状況になっている。

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何かが起きることだけは確実なのだ

大統領選挙が荒れている。結果がジョー・バイデンの勝利になっても、ドナルド・トランプの再選になっても、アメリカの政治は混乱する。

どちらも強固で熱烈な支持層を持っているのだが、同時に激しい反対層も持っているからだ。ドナルド・トランプに向けられた反発、あるいはジョー・バイデンに向けられた反発は、もはや嫌悪を超えて憎悪の域に達している。

すべてをぶち壊して敵を量産するトランプと違って、バイデンは協調的で実務経験が豊富だからバイデンの方がまだマシだという話もある。しかし、バイデンは痴呆症を抱えており、中国との黒い結びつきや息子の性的スキャンダルも抱えている。

そのため、アメリカはどちらが大統領になっても国民が割れ、世論が割れ、対立が激化する。すでに格差と貧困はアメリカでも隠し切れないほどの社会問題と化している。人種間でも衝突が激しくなった。

その中で政治の混乱や対立が起きており、やりたい放題のリベラルに対して右派もまた先鋭化している。こんな中で、予期せぬことが「何も起きない」と考えるのはどうかしている。

何が起きるのか分からないが、何かが起きることだけは確実なのである。

あと半月もしないうちに、トランプとバイデンのどちらが大統領になるのか決まる。そして、どちらが大統領になってもアメリカは荒れていく。そうなると、当然のことながら世界も荒れて混乱に見舞われる。

世界の混乱は対立を鮮明化させ、衝突の確率を増やす。東アジアが軍事衝突の舞台になるかもしれないし、中東の混乱が拡大するかもしれないし、EU(欧州連合)がさらに分離していくかもしれない。

誰も先を見通すことなどできないので、予測しようと思っても無駄だ。私たちが時代の荒波に巻き込まれる可能性は、非常に高い。それは不意打ちになるはずなので、誰もがその影響から逃れられない。

貧困、暴力、社会の荒廃は社会の裏側で膨れ上がっていき、やがては爆発していく。新しいアメリカの大統領は、こうした混乱の中でうまく舵取りができるだろうか。それとも、より混乱を増長させていくのだろうか……。

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