将来は良くなることもあるが、逆に悲惨なまでに悪化することもあるのだ

将来は良くなることもあるが、逆に悲惨なまでに悪化することもあるのだ

コロナは社会を激変させた。誰もが想像しなかった巨大で凶悪な波だった。そんな中、収入が途絶え、自殺に追い込まれた人たちは、努力しなかった人なのか。不真面目な人だったのか。だらしがない人だったのか。いや、そうではない。「時代」が彼らの人生をなぎ倒している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

未来は常に良くなるわけではない

2020年10月15日。東京都北区のアパートで放火事件が起きて1人が死亡、3人が怪我をする事件が起きていた。犯人は、そのアパートの1階に住む59歳の男だったのだが、放火したアパートのそばで呆然としているところを逮捕されていた。

「コロナで収入が途絶えて絶望しかなく死を意識していた」

男は犯行の動機をそう語った。失業者も増えているが、「隠れ失業者」である休業者もまた増えている。

休業者というのは、「仕事がないので自宅で待機してくれ」という状態であり、待機中はもちろん収入が入らない。クビではないが収入もない。コロナがいつ収束するのかも分からないわけで、その絶望感はかなり強いだろう。

自殺も増えている。9月の自殺者は全国で1805人だった。女性の自殺がとびきり増えている。(ブラックアジア:このままでは、日本の社会で女性の餓死者・自殺者が大量に出てもおかしくない

2020年がコロナによって社会が大混乱するとは誰も想像しなかった。そんな時代になるとは誰も予測しなかった。しかし今、全世界の人々が「時代」に翻弄されて窮地に落ちている。私たちの人生は、否が応でも時代に翻弄されてしまう。

生まれた場所、生まれた時代が良ければ、自分の好きなことを追求して、自分の好きなように生きる人生もある。逆に生まれた時代が悪ければ、生き延びることだけでも精一杯で、ときには個人の力ではどうにもならなくなって力尽きることもある。

恐ろしいのは、今がいくら輝いていても、それが最後まで続いていくとは限らないことだ。未来は常に良くなるとは誰も約束してくれていない。

たとえば、1920年代に生きていた人たちは稀に見る好景気の中で暮らし、「将来は夢がある」「将来には可能性がある」と考えていた。ところが、1930年代に入ると、彼らの思いとは裏腹に、時代は一転して史上最悪の世界恐慌に突入していった。

この1920年代当時の人たちが味わった未来とは失業と自殺の嵐だった。それが第二次世界大戦をも引き起こすことになった。当時、将来に輝きがあると考えていた人たちは、深い絶望の中に放り込まれたのだ。

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個人の努力を押しつぶしていく時代

1930年代に生きていた日本人は、日本こそが大東亜圏の覇者となるという夢に生きていた。しかし、1945年には東京大空襲によって焼け野原となり、原子爆弾をふたつも落とされて壊滅的打撃を受けた。それが1930年代に夢を描いていた人たちの苦渋に満ちた結末だった。

1980年に生きていた日本人は、日本はこのまま世界最大の富裕国になるという夢を描いた。国が豊かになれば、自分たちもまた豊かになる。日本の未来は明るいと誰もがバブルに踊ったのだった。

ところが1990年に入るとバブルは崩壊し、日本は未曾有の不景気に落ちていった。この不景気は今も日本人を苦しめ続けている。

2000年代のアメリカ人もそうだ。彼らもまた右肩上がりに上がっていく土地をサブプライムローンで買いながら、「これがアメリカンドリームだ」とうそぶいた。自分たちには豊かな未来があると確信していた。

ところが2008年9月15日のリーマンショックは、一気にアメリカ人の中産階級を没落させていったのだった。

人々は漠然と「将来は良くなるものだ」と考えている。しかし、歴史を見るとそれは事実ではない。将来は良くなることもあるが、逆に悲惨なまでに悪くなることもある。自分が生きている時代が良くなるのか悪くなるのかは、運でしかない。

高度経済成長を歩んでいた日本人、あるいはバブルを享受していた日本人は、今の日本を見てこんなにひどい国になっているとは夢にも思わなかったに違いない。しかし、これが現実だ。

時代が音を立てて崩れていくと、その中で個人がいくら努力しても徒労に終わる。個人の努力を押しつぶしていくのが「時代」という大きな潮流だ。

コロナもまた、誰もが想像しなかった巨大な波である。人々の夢や希望や計画をすべてなぎ倒して今も世界を混乱させ続けている。企業の破綻・縮小・廃業はまだ続いている。失業者も休業者も増え続けている。自殺も止まらない。

収入が途絶え、自殺に追い込まれた人たちは、努力しなかった人なのか。不真面目な人だったのか。だらしがない人だったのか。いや、そうではない。「時代」が、彼らの人生をなぎ倒しているのである。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

日本人はどんどん貧困に落ちていく

時代の荒波はいろいろな形でやってくる。2020年はコロナという疫病がそれをもたらした。2021年は収束して欲しいが、不幸が重なると不景気が続く可能性も消えていない。混乱している時は、何が起こるか分からない。

不景気になれば、個人がどんなに努力しても仕事を失う人が増える。個人の希望や努力や夢や計画というささやかなものは、時代が悪い方にうねり始めるとすべて押しつぶされていく。人は大きな潮流に飲まれ、流され、溺れていく。

平穏な時代しか生きてこなかった人たちは、普段は「時代」を意識しない。だから、自分が生きている時代の姿を理解できないことが多い。平穏な時代に生きていたのが長い人であったら、人生ずっと平穏であると思ってしまう。

そうではない。時代は容赦なく世界を変える。日本は1990年にバブル崩壊という経済危機に見舞われて1990年代から経済縮小の時代になったのだが、2000年に入った頃には経済アナリストの何人かが次のように言っていた。

「バブル崩壊の傷痕は深い。日本は復活できないかもしれない。日本人はどんどん貧困に落ちていく」

ところがバブル世代は、「いや、そんなことはないだろう」と思っていた。またバブルは戻ってくるだろうし、日本が貧困に落ちると信じなかった。「貧困」という言葉は、バブル世代には実感が伴っていなかった。そんなものは「遠い遠い過去のもの」と考えている人もいた。

自殺する人が年間3万人を超え、GDP成長率が下がり、内需が落ち、人口が減少するという明確なシグナルが出ていたのに、「日本が没落するなどあり得ない」と頑なに考えていた人たちもいたのだ。

「未来は常に明るい、未来は進歩する、未来は夢がある」とバブル世代は本気で信じていたのだ。しかし、日本の貧困はそれからも拡大していく一方だった。

未来は常に明るいと考えるのは勝手だが、現実は必ずしもそうではない。未来は明るいのか暗いのかは、その時々の社会情勢によって決まるので、「常に明るい」と思い込んだら足元をすくわれる。

明るくない可能性もある。

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

未来が不確実だという認識を持つ

時代はうねる。自分の未来が運の良い時代に恵まれるか、不運になるかは誰にも分からない。

気が付けば殺戮の大地になっていた中東。気が付けば貧困者が溢れているアメリカ。気が付けば移民で混乱状態となった欧州。気が付けば周辺国と激しい対立にある日本。そして、気が付けばコロナによって激変してしまった世界……。

時代が大きなうねりを上げて変わっていくと、私たちはみんな個人の努力とは別のところで人生がねじ曲がる。10年後には自分を取り巻く世界がどうなっているのか想像することすらもできない。

もしかしたら、人類は大混乱を国際協力と平和主義で乗り越えるかもしれないが、逆に憎悪と暴力にまみれて第三次世界大戦の最中であるかもしれない。

未来が不明確になっている今、私たちは現実主義に徹する必要がある。実際のところどうなるのかは誰にも分からない。そうであれば、私たちは「人々が不況に苦しんでいた過去の時代」に関心を持った方がいいかもしれない。

・大恐慌の時代、誰が助かったのか。
・国家破綻の時代、誰が助かったのか。
・戦争の時代、誰が助かったのか。

現実主義者は、時代が悪ければ自分の人生も時代に飲まれることを知っている。不景気に飲まれ、戦争に飲まれ、国家破綻に飲まれることを知っている。

コロナによって世界各国の国家財政が悪化している。日本も今後は増税や社会保障費の削減が避けられないだろう。それがまた社会のどん底(ボトム)にいる人たちを苦しめることになる。

やがては個人の努力ではどうしようもないような不況が日本を覆い尽くす日が来るかもしれない。そうなれば、自分自身の人生も大きく暗転する。

時代に翻弄される危険性が、刻一刻と高まっていることを私たちは忘れるべきではない。私たちの人生は岐路に立たされている。時代は個人の人生を破壊する凶暴なエネルギーを持っているのだから、よく時代の流れを見つめておくべきだ。

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