コロナ禍によって「日本のどん底」が蟻地獄のように自分たちに迫ってきている

コロナ禍によって「日本のどん底」が蟻地獄のように自分たちに迫ってきている

ネットカフェ難民、貧困の風俗嬢、シェアハウスで暮らす人々、ひきこもり、ホームレス……。社会のどん底で起きていることは、恐らく普通に生きていた人たちの多くは存在は知っていても見て見ぬふりをしてきた世界だ。社会環境が悪化し、会社が傾いて給与がきちんと出なくなったり、会社が倒産したりすると、「普通の生活」は簡単に崩れ去る。そして、落ちないはずだったところに落ちていく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

一ヶ月家賃を滞納するのであれば出て行って下さい

今回の新型コロナウイルスはあらゆる業種を追い込んでいるのだが、その中でも飲食店経営に与えるダメージは非常に大きい。2020年5月。新宿歌舞伎町を歩くと、今まであった飲食店のいくつかが閉店になっているのを見る。

街を華やかに彩っていたキャバクラやホストクラブも次々と閉店している。今後、より環境が厳しくなると、もっとひどいことになるだろう。

1ヶ月前の4月上旬。私は赤坂3丁目にある赤坂駅にごく近いみすじ通りにある小さな焼肉屋で10年近く営業をしていた女性経営者に話を聞いていた。この店では3月から急激に客が減り始めて4月にはすでに彼女は追い込まれていた。

今まで雇っていたアルバイト2名に辞めてもらい、彼女と夫の二人でやりくりしていたのだが経営は追い詰められるばかりで、私が会った時は店の大家に「とにかく今は苦しいので家賃を半額にして下さい」と交渉しているところだった。

この時点で日本政府は家賃補助を表明していたが、その補助金は本当に下りるのか、いつ手に入るのかまったく分からない状況だった。

「大家からは一ヶ月家賃を滞納するのであれば出て行って下さいと言われています。でも、私たちは出ません! ここを出たらどこで仕事をするのですか? とにかく何とか経営を持たせるために家賃を半額にして下さいと交渉しています」

彼女は店を畳むことはまったく考えておらず、とにかく何とか維持するのに必死だった。この赤坂の店が潰れたらもはや先がないと彼女は考えていたからだ。

「もちろん、大家さんにも事情があるので最終的には駄目だと言われるかもしれないけど、私たちも生きていくのに大変だから言うしかない。もし半額が駄目というのであれば、いったいいくらまで減額してくれるのか、そういった交渉もしています。4月も5月も全額を払うことができない。それが今の正直なところ」

彼女は私に窮状を切々と訴えた。彼女が生き残れるのかどうか、私には分からない。すべての飲食店経営者は彼女とまったく同じ状況に追い込まれているはずだ。

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コロナは「徐々に悪化する経済環境」を加速させた

新型コロナウイルスが社会にもたらした悪夢は3つある。1つは社会活動を急停止させたことで、徐々に徐々に悪くなっていた日本の経済環境を一気に加速して「より悪い経済環境」にしてしまったことだ。

1990年代のバブル崩壊、2000年代の非正規雇用の増加、2010年代の貧困の定着と深化。日本の経済環境は30年をかけてゆっくりとゆっくりと悪化していき、活力が奪われ、人々は閉塞感の中で暮らすようになっていた。

新型コロナウイルスは、この「徐々に悪化する経済環境」を加速させて「一気に悪化する経済環境」に変えてしまった。

2つめは、それによって元々「どん底」にいる人たちを窮地に追いやって、さらなる深みに落としていったことだ。そして「どん底」に落ちないようにギリギリのところで踏みとどまっていた人たちを、ついに転がり落としてしまったことだ。

日本社会はすでに労働人口の4割が非正規雇用者となっていたのだ。新型コロナウイルスは経済を急停止させたので、体力のない企業から非正規雇用者を解雇・雇い止め・無給の一時休業をして彼らを切り捨てた。これによって、ギリギリのところで生活を保っていた人たちがみんな路頭に迷ってしまった。

そして、3つめは何か。ここが重要なのだが、今まで「どん底」とは無縁のところで普通に生きていた人たちをも、どん底に突き落としかねないほどの社会環境にしてしまったことだ。

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景気悪化が解雇・雇い止め・無給の一時休業につながっている

新型コロナウイルスは、航空業界、観光業界、小売り、娯楽、外食、自動車、食品・アパレルと言った多くの従業員を雇っている業界をいきなり営業停止させたので、事業主は雇っていた人たちを守ることすらもできないほど苦しむようになっている。

2020年3月21日、日本商工会議所が出した資料でその衝撃的な業況悪化が見える。

製造業:51.7%が悪化したと回答
卸売:53.1%が悪化したと回答
小売:58.9%が悪化したと回答
サービス:55.8%が悪化したと回答

こうした景気悪化が解雇・雇い止め・無給の一時休業につながっているのだ。

2020年4月には東京都のタクシー会社が600人運転手を大量解雇して、従業員が「一方的な解雇は不当だ」として東京地方裁判所に解雇の無効などを求める仮処分を申し立てる騒ぎになった。結局、このタクシー会社は「一部の運転手について」だけは雇用を維持するという話し合いで労働組合と合意した。

しかし、この一斉解雇が大きく報道されてから、同じタクシー業界だけでなく、多くの業界で一斉解雇を真似する企業が続出した。

一斉解雇をしなくても、観光業や宿泊業は新型コロナウイルスによって外国人が一気に減少したことから、従業員のほとんどを無給の一時休業にして、実質的な解雇をしたも同然の形を取っている。

そして、普通の人たちが「自分たちもどん底に転がり落ちてしまうのではないか」という恐怖と不安にさいなまれるようになり、実際に急激に迫ってくる経済環境の悪化の中で何もできないまま呆然としている。

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すなわち「普通の人がどん底に落ちていく」

「これは世界大恐慌なみの経済ショックである」と多くの経済アナリストが口にした。経済アナリストだけではない。IMF(国際通貨基金)も4月14日の時点で「世界経済は1930年代の大恐慌以来となるほど悪化する」と述べた。

現代の資本主義の総本山であるアメリカですらも、2020年のGDP成長率は「マイナス5.9%」、日本も「マイナス5.3%」になるとIMFは述べた。凄まじいまでの景気後退は、莫大な失業者を生む。それはすなわち「普通の人がどん底に落ちていく」ということを意味している。

リーマンショックや東日本大震災で日本が経済的に大混乱した時、やはり多くの企業が倒産や閉店を余儀なくされ、生き残った企業も一時的にボーナスを削減したり大減額になったりした。厳しい経済環境だった。しかし、今回のコロナショックは、こうした過去のショックをはるかに上回る。

ネットカフェ難民、貧困の風俗嬢、シェアハウスで暮らす人々、ひきこもり、ホームレス……。社会のどん底で起きていることは、恐らく普通に生きていた人たちの多くは存在は知っていても見て見ぬふりをしてきた世界でもある。普通に働いて普通に生きていたら、絶対に落ちないだろうと思っていた世界である。

しかし、普通の人が普通の生活ができているのは、きちんと仕事があってきちんと給与が支払われているからである。社会環境が悪化し、会社が傾いて給与がきちんと出なくなったり、会社が倒産したりすると、「普通の生活」は簡単に崩れ去る。

そして、落ちないはずだったところに落ちていく。

あまりの生活不安のために2020年3月から精神科医にはコロナへの強い不安で息苦しさや不安や恐怖に怯える外来患者が増えていて、医師はこれを「コロナ鬱とも言うべき症状」と述べている。

今、まさに普通の生活が崩れ去っていく過程にある。「日本のどん底」が蟻地獄のように自分たちに迫ってきている。だから普通の人が不安と恐怖に震え上がって、精神的なバランスをも崩すようになっている。

『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる(鈴木 傾城)』

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