コロナウイルスによって追い込まれていくタイ。やはりステイホームでは限界

コロナウイルスによって追い込まれていくタイ。やはりステイホームでは限界

タイ政府はひとまず4月30日までロックダウンを継続する予定なのだが、もしかしたら継続されるかもしれない。そうなると、人々はコロナ感染を免れるかもしれないが困窮はますます強くなる。継続が長くなればなるほど、経済的にも精神的にも持たない人が増えるだろう。今のところ、タイの国民は平静を保っているのだが、自粛(ステイホーム)によって経済的に困窮して政府の支援が十分でないと「ステイホーム」など言ってられなくなる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

いよいよ、タイ経済もガタガタになってきた

タイのチャイナタウンである「ヤワラー」地区には「銀行」ではなく「金行」があちこちに点在している。「金行」はゴールドを売っている店なのだが、今でも東南アジアでは紙幣よりもゴールドの方を信用している人の方が多い。

紙幣というのは脆弱な政府が発行しているものであり、いつ紙くずになるのか分からない。しかしゴールドは永遠の輝きであり他国でも換金できる。みんなそう思っているので、「金行」は今でも東南アジアではとても重要な役割を果たしている。

その影響もあって、私もゴールドのネックレスを売らずに持っている。2012年までは私もゴールドを大事に保有していて資産の3分の1はゴールドだったのだが、この頃に考えを変えてゴールドのほとんどを売ってアメリカの株式に転換した。

しかし、22歳の頃に買った喜平チェーンのゴールドのネックレスだけは手放す気にならず今も大事に保有している。私が持っているそのネックレスは銀座の田中貴金属工業で買ったもので18金で作られている。しかし、東南アジアのゴールドは24金でとても柔らかい。

ヤワラーで買った24金のゴールドも2012年にすべて売ってしまった。

今、中国発コロナウイルスの影響でタイ経済も壊滅的ダメージを受けているのだが、それによって現金を必要としている人たちが、この「金行」に押しかけてゴールドを売っている。

人々がゴールドを売るというのは、どういうことか。それは「非常事態」が起きているということである。タイ経済もガタガタになってきた。タイの企業も、タイの人々も苦しんでいる。

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あの「アジア通貨危機」を超える危機が起こる

世界中どこの国も2020年は「史上最悪」の年となる。タイもすでに3月25日の時点で「2020年の経済成長率はマイナス5.3%になる」と悲観的な数字を出している。輸出も全滅、観光も全滅、しかもいつ正常に戻るのかまったく分からず先が見通せない。

タイは1998年に「アジア通貨危機」に見舞われて凄まじい不景気に落ちてしまった過去があるのだが、これから起きるのはあの「アジア通貨危機」を超える危機である。

経済基盤が脆弱な企業が多いタイの企業はあと数ヶ月もこのような状況が続けば次々と連鎖倒産していくことになる。

そう言えば、コロナの問題が起こる前から経営がガタガタになっていたタイ航空も、弱り目に祟り目の状態で、もはや倒産するかしないかの瀬戸際にまで追い込まれている。

タイには多くの国外企業が進出していて工業団地に集結しているのだが、この工業団地も製造がストップしている。電子部品の生産も、自動車部品の生産も停止して、工場は機能していない。台湾系の工場も閉鎖となって500人がいきなり解雇されたりしている。

街でもあらゆる中小企業・小規模事業者が倒産している。失業者はうなぎ上りに増えており、2020年3月だけで650万人近くが失業した。4月に入っても失業者は増え続けており、すでに700万人近くが失業者となっている。

タイのGDPの2割を占める観光業も壊滅的状態であり、歓楽街を中心とした6000億円産業もロックダウンで吹き飛んだ。観光産業は長期的に回復しない可能性が高いので、観光立国としてのタイはコロナと共に吹き飛ぶ。

タイでの感染者は減っている。累計感染者数2839人で、新たな感染者は13人程度なので、封じ込めは十分に成功していると言っても過言ではない。街をゴーストタウン化した意義があった。

しかし、経済が犠牲になった。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

もともと貧困だった彼らはますます貧困化

最終的にタイの失業率は1000万人に達するとタイ商工会議所は考えている。タイの人口は約7000万人。そのうち労働人口は約3800万人ほど。1000万人近くが失業するというのは、すなわち4人に1人が失業状態になるということである。

どこの国でもそうだが、経済が悪化すると単純労働をしている非正規の労働者が真っ先にクビを切られる。つまり、貧困層が真っ先に仕事を失う。もともと貧困だった彼らはますます貧困化するということだ。

タイ政府はこうした経済的な悪影響を受けている人たちを支援するために1人当たり5000バーツを給付する方策を進めたり、失業手当・休業手当の支給を迅速化したりする方策を取っているのだが、それでも自殺する人たちも次々と出てきている。

プーケットで先行きを悲観して自殺した女性もいた。(ブラックアジア:世界中のあちこちで、行き場を失った真夜中の女たちが不安と恐怖の中にある

4月21日。タイの東北部(イサーン)のマハーサーラカーム地区で6歳と6ヶ月の子供を持つ母親が、もはや万策尽きて6歳の子供と6ヶ月の乳児を残して首を吊って自殺した。この母親はヨーグルトを売って生きていた女性なのだが、稼ぐことができなくなって子供のためのミルクを買うことすらもできなくなって絶望して死んだのだった。

バンコクのタクシーの運転手は都市のロックダウンでまったく稼ぐことができなくなり、その上に政府の救済措置を受けることができず、憤怒の中で自殺した。この運転手は58歳だったが、3ヶ月1万8000バーツの車のリース代を払うカネがなくなって精神的に追い込まれてしまっていた。

4月20日にはバンコクの41歳の父親と5歳の娘が入水自殺しているのが見つかった。この41歳の父親は失職していたのだが、新しい仕事を見つけることができずに追い詰められていた。

地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから

コロナを最大限防御しつつ企業活動を最大限継続させる

外国人も自殺している。

バンコクのディンデン区に住む26歳のイギリス人は、コンドミニアムの13階から飛び降り自殺した。タイ警察は、このイギリス人男性はコロナウイルスの感染拡大によって仕事がなくなり、将来を悲観して自殺したのではないかと述べた。

4月4日も74歳のイギリス人の男性もバンコクのラムカムヘン通りの高速道路から飛び降りて死んでいるのが見つかっている。

タイ人の妻によると、この老イギリス人もコロナウイルスによってビジネスがうまくいかなくなり大きな損失に悲観していた。朝、ピックアップトラックに乗って出かけたのだが、高速道路で車を降りて身を投げたのだった。

コロナでの感染は「コロナで死ぬか、飢え死にして死ぬか」を人々に強いているのだが、これが鮮明に現れるのが新興国・途上国であると言える。コロナが収束しないでロックダウンが継続するのであれば、ますますこの傾向は深まる。

タイ政府はひとまず4月30日までロックダウンを継続する予定なのだが、もしかしたら継続されるかもしれない。そうなると、人々はコロナ感染を免れるかもしれないが困窮はますます強くなる。

継続が長くなればなるほど、経済的にも精神的にも持たない人が増えるだろう。今のところ、タイの国民は平静を保っているのだが、自粛(ステイホーム)によって経済的に困窮して政府の支援が十分でないと「ステイホーム」など言ってられなくなる。

いずれ「コロナを最大限防御しつつ企業活動を最大限継続させる」に舵を切るしかなくなるだろう。(ダークネス:「ステイホーム」では駄目だ。最大限の防御をしつつ活動再開の覚悟をすべき

コロナが収まらない以上、結局は最後にそうせざるを得ない。私自身は「ステイホーム」から「コロナを最大限防御しつつ企業活動を最大限継続させる」の方に早く切り替えた方が傷が浅いのではないかと考えている。タイも、日本も、世界も……。

『売春地帯をさまよい歩いた日々 ブラックアジア・タイ編』

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