転落。今は普通に生きるということ自体が貴重な状況になりつつある時代なのだ

転落。今は普通に生きるということ自体が貴重な状況になりつつある時代なのだ

「転落」にはいくつも理由がある。重要なのは、その理由が分かっていても、それが避けられるとは限らないということだ。些細な失敗で転落することもあるし、突如として不幸が襲いかかって転落することもある。自分が招いた転落もあれば、他人に突き落とされる転落もある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

ある日突然思いもよらないことで転落していく

私が転落した人たちに強い関心を持つのは、私自身が二十歳にして東南アジアの暗黒に堕ちたことや、真夜中に出会った女性たちがみんな貧困から転落していた経歴だったということや、歓楽地で快楽に溺れた普通の男が転落していく姿をずっと見てきたからに他ならない。

言って見れば、私は転落した人たちとだけしか付き合っていない。だから、運が悪ければ、誰もが転落していくというのを私は骨身に染みて知っている。

人の人生はどんなに順風満帆であっても、ある日突然思いもよらないことで転落していく。「成功」というのは現在の一時的な状況を示すものであって、未来永劫に約束された状況ではない。

事業家、政治家、芸能人、アスリート、サラリーマンは言うに及ばず、誰であってもある瞬間の決断を間違うと一瞬にして転落してしまうのは私たちはいつもゴシップ記事で見ている通りだ。

ダイエーの中内功、ヤオハンの和田一夫、西武の堤義昭などは一斉を風靡した事業家だった。しかし、バブルの崩壊と共に凋落して消えていき、今はもう覚えている人すらも少なくなっているはずだ。

政治家も落選してしまえば「ただの人」だし、芸能人も田代まさしや沢尻エリカのようにドラッグで転落していくような人もいるのだが、その前に芸能人は人気商売なので誰にも知られないで凋落して忘れ去られていく。

アスリートは活躍できる旬の時代は短く、現役時代に贅沢三昧を覚えると後の人生で借金まみれになって転落していくことになる。

転落していくスーパースターについてはこちらで取り上げた。(マネーボイス:なぜ年収数億円の有名人が破産する?私たち庶民にも参考になるたった1つの防衛策=鈴木傾城

普通の人も、誰かが常に転落している。誰であっても「転落」が他人事ではないのは、自分の人生や知り合いの人生を振り返ってしみじみと感じるはずだ。

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リストラや倒産はスピードの速い現代社会では日常

株価が上がったり下がったりして毎日変動するように、人生もまた上り調子だったり下がり調子だったりして一定していない。それほど振幅のない人も波瀾万丈の人もいるが、「常に成功し続けている」という人は絶対にいない。

順調だった人が、いきなり窮地に追いやられる時というのは、いったいどのような時なのだろうか。苦労もなく食べていけた人がいきなり生活苦に落ちるというのは、何が原因となるのだろうか。

「転落」にはいくつも理由がある。

それは1つや2つではない。本当にたくさんの理由がある。重要なのは、その理由が分かっていても、それが避けられるとは限らないということだ。

些細な失敗で転落することもあるし、突如として不幸が襲いかかって転落することもある。自分が招いた転落もあれば、他人に突き落とされる転落もある。

人の人生が転落していく最も大きなものは、今までやってきた仕事を失ったり、会社を失ったりするものだろう。リストラや倒産はスピードの速い現代社会では日常の出来事になった。

入社したときは一流企業だと言われていた会社でも、資産の切り売りや社員の切り捨て、身売り、倒産という運命になることも珍しくない。

名門企業であろうが、基幹産業だろうが、流行業界だろうが、そんなことはまったく関係ない。得意絶頂の会社が、いきなり窮地に堕ちることもある。

たとえばリーマン・ショックの時は、一流投資会社リーマン・ブラザーズが崩壊し、アメリカを代表するシティー・バンクやAIGも破綻寸前にまで追い込まれた。経営者が打つ手を間違えると、会社はたった一日で栄光からどん底に堕ちる。

企業が転落するときというのは、そこで働いている人たちが給料激減に見舞われたり、リストラされて、会社以上に悲惨になるということである。

いくら有能な人であっても、泥沼に落ちていく会社にいたら、一緒に転落して泥沼に落ちる。生活を支えているのが仕事なのだから、仕事がうまくいかなくなると、人生は急激に悪化していくことになる。

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焦燥感や、無力感や、不安や、絶望が襲いかかる

会社がうまくいっていても、その会社の仕事がブラックであったり、労働基準法に準拠していない労働を強いるところだとすると、長く勤めることは不可能に近い。

また、たまたま職場の人間関係に問題のある部署であったりすることもある。人間関係に問題がある時は、理不尽な人間が生き残り、真面目な人の方が心が折れることの方が多い。

こうした不運も、すぐに自分の人生に大きな悪影響を与えることになる。

それが初職であったり、辞めた時が高齢だったりすると、そこを辞めたら次は見つからない人も出てくる。

仕事が見付からないから、アルバイトやパートや人材派遣でしのいでいると、そこから抜け出せなくて、結局は消耗品のように使い捨てされてしまう。

バブル崩壊以後、そうした人生を送らざるを得なくなった人たちが大勢いて、だから貧困と格差が社会の底辺で急激に広がってしまったのだ。

仕事に恵まれなかったり、人に恵まれなかったり、会社に恵まれなかったりした人は、あきらめて次を探すしかない。しかし、その「次」が見つからない。

世間はうまくいっていない人を「社会が悪かったのだ」と解釈してくれることはほとんどない。まず、「個人の資質に問題があるに違いない」と疑う。

だから新しい仕事を探そうとしても、人間性に問題があると思われて、あからさまに面接で落とされることになる。

こうして窮地に追いやられてしまった時は、多くの人が巻き添えを食いたくないと思って去っていく。友人だと思った人はみんな自分が不遇になると消えていく。

そして、望んだわけでもないのに孤独に追いやられてしまった人は、焦燥感や、無力感や、不安や、絶望で、病気になりやすくなる。心の病気になることもあれば、身体の病気になってしまうこともある。

病気になれば満足な経済活動もできなくなる。負のスパイラルは身も心もズタズタにして、転落をより深いものにする。

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転落とは、滅多にないことなのだろうか?

女性であれば、若年妊娠、シングルマザー、結婚崩壊、家庭崩壊が転落のきっかけになる。結婚生活がうまくいかない理由が男にあっても、転落するのは女性なのだ。

妊娠して男が責任を取らなかった時、あるいは離婚して男が去った時に子供が残されていると、女性は子供を育てながらも生活費を稼ぐという「曲芸」を強いられることになる。

パートで充分に暮らしていけるのであれば苦労しない。暮らせないから苦労する。

また、別れた相手がしっかりと養育費を払ってくれるのであればもっと苦労しない。男は往々にして養育費を払わずに姿をくらますから苦労する。

結局、女性がツケを払わされる形になって転落を余儀なくされてしまう。

困窮した女性は実家に頼るしかない。しかし、親の支援や援助が受けられない境遇にいる女性は、その転落はとても深いものにならざるを得ない。

だから、こうした追い詰められたシングルマザーが風俗に堕ちて、待機部屋に託児所みたいなものができるような社会になっているのだ。

デリヘルで身体を売りながら、四苦八苦しながら生きている女性はもう珍しくも何ともない。

デリヘル嬢については私も多くの女性に会ったが、転落の形はやはり人それぞれだった。こうした転落は、滅多にないことなのだろうか。それとも、よくあることなのだろうか……。

言うまでもなく、とてもよくあることだ。

結婚も減っているのだが、結婚しても3組に1組は愛をなくして別れる結果となっている。33%の女性は「転落の危機」に見舞われてしまう。そして、別れたときの社会的ダメージは、経済的にも対外的にも女性の方が大きい。

そう考えると、今の時代に「普通に生きられる」というのは、どれだけ幸せなことなのかというのが分かる。

世の中の動きが速いというのは、転落するのも速いということだ。ほんの些細なことでも転落してしまう。あるいはリストラや事故や病気で予測もつかない形で転落してしまう。

転落を他人事だと思ってはいけない。今は普通に生きるということ自体が貴重な状況になりつつある時代なのだ。社会情勢は毎年のように厳しくなっている。2020年以後は厳しさもより身近になる。

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