いつだったか、売春地帯パタヤで、50代後半あたりの日本人がホテルのエレベーターの中で私に声をかけてきたことがあった。私は部屋に戻る途中だったが、彼も同じ階だった。
「日本の方ですか?」と問いかけられたので「そうです」と答えた。「ペイバーしなかったんですか?」と再び質問されたので、「一度部屋に戻って、それからまた繰り出す予定なんですよ」と答えた。
私は「あなたもペイバーしないで戻るんですか?」と何気なく訊ねると、彼は「いや、実は性欲がまったくなくなってしまって……」と言った。せっかく売春地帯パタヤにいるのに、性欲がまったく消えて当惑しているように見えた。
売春地帯にいて性欲がなくなるというのは、実のところ「よくあること」だ。あまりにも荒淫と堕落に浸っていると、もう食傷気味になって何も感じなくなってしまう。性への渇望が消えるのだ。
いくらバイアグラみたいなセックス強化剤があったとしても、「性欲」そのものが消えてしまったら意味がない。バイアグラは性欲があって勃起しない男が使うものである。
バイアグラを飲んで性欲が湧くわけではない。性欲は心理的なものだ。若い頃は1年365日、性欲にまみれているが、年齢がいけばいくほど自然とそれは消えていき、やがては「奮い立たせなければ生まれない感情」になっていく。
問題は、どうやって奮い立たせるのか、ということだ。方法はあるのか?