カンボジアの70ストリートで女たちと一緒にいたとき、彼女たちから強い香料の匂いが漂う。しかし、この香料が取れた彼女たちの身体はどんな匂いがするのだろうか。
それはかすかな泥の匂いであり、かすかな汗の匂いである。
かつてのカンボジアは首都プノンペンも紅土(ラテライト)の土が剥き出しになっていて、細かい土煙がいつも舞っているようなところだった。
その土煙は女たちの服に染みつき、身体に染みつき、髪に染みついていく。その上、彼女たちが浴びる水は、雨水を溜めた瓶(かめ)や大バケツの水である。その水もまた初めから泥の匂いがした。
彼女たちのつける香料は強いものが多くて、普段は分からないのだが、朝起きると彼女の香料もすっかり取れて、彼女の身体の本来の匂いがする。
泥と汗の匂い。それからベビーパウダーの匂い。あるいは部屋で焚いた線香の匂い。カンボジアの70ストリートの女たちは大好きだったが、こうした泥の匂いが彼女たちの本来の匂いであり、ひとつひとつが私に強烈な印象を残した。
泥の匂いがする女たちは、カンボジアだけではない。インドネシアでも、インドでも、そんな女たちがいた。