ホームレスではないが、限りなくそれに近いギリギリの一線にいる人たち

ホームレスではないが、限りなくそれに近いギリギリの一線にいる人たち

日本はバブルが崩壊した1990年代から底辺で貧困層が増え始め、自殺も3万人超えが普通になっていた。しかし、1990年代は「まだ日本は経済大国である」という自負もあったせいか、ほとんどの人は底辺の異常に気付かなかった。

この頃、「貧困」は日本人の意識外だったのだ。

その忘れられていた「貧困」が意識されるようになっていったのは2000年以降だが、ちょうどこの頃から製造業でも非正規雇用が取り入れられて拡大していき、若年層の貧困が目立つようになっていた。

正社員になれない人間が増えていき、ニートやフリーターが顕在化して社会に認識されるようになった。格差も拡大していた。これで、やっと日本人は社会の底辺で貧困がじわじわと広がっているのを知った。

この若年層の貧困が、日本人全体の貧困になっていったのは2008年以降である。その2008年には、世界経済を揺るがす経済事件も起きて日本を巻き込んでいた。何が起きたのか。リーマン・ショックである。

これによって世界経済は一気に不況に突入し、日本でも輸出が急激に減少し、企業は非正規雇用者の解雇と雇い止めと正社員のリストラを始めるようになった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

2008年の個室ビデオ放火事件

日本の貧困化をさらに悪化させたのは、2009年から始まった民主党政権だ。民主党政権は日本の輸出企業を苦境に追いやる円高を放置し続けた。円高を放置することによって、日本経済を破滅に追いやろうとしているかのように何もしなかった。

日本企業は苦しみ抜いた。

それ以降、日本企業は工場を中国や東南アジアに移動させて、日本人を徹底的に切り捨てる生き残り策に出た。また円高で競争力を失ったので、企業を縮小させるためにも正社員をリストラし続けた。

民主党政権が放置していた円高によって、日本から雇用が消えて行き、リストラが増え、その結果として日本人がどんどん貧困化していくことになった。

2008年10月1日、大阪府大阪市浪速区でひとりの男が「個室ビデオ店・キャッツなんば」を放火するという事件があった。15人が死亡して、10人が重軽傷を負った。犯人の小川和弘は2014年3月6日、死刑が確定している。

この事件は、ひとりの人間が起こした事件で出した犠牲者は戦後最も多かったので、その部分がクローズアップされていた。しかし、この事件の本質は犠牲者数ではなく、犯人と犠牲者の境遇の方だった。

小川和弘はパナソニックの元社員だったが、リストラされて人生が変転していった男だった。さらに、小川の放火によって死んだ男たちも、その犠牲者の多くは「住所不定」「身元不明」の人間たち、実質的にホームレス寸前になっていた男たちだったのである。

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一夜を過ごすために使っていた場所

「個室ビデオ店」とは、いったいどんなところか。ひとことで言うと、一畳ほどの閉ざされた空間に、PCとDVDプレイヤーが置いてあって、リクライニングマットで、ポルノを見て過ごす空間だ。

その多くはポルノを鑑賞するための用途で使われるのだが、実はこの空間はそれだけのためにあるわけではなかった。住所も仕事もない人間が、路上で寝たくないので、ここで一夜を過ごすために使っていたのである。

これを聞くと、誰もが思い浮かべるのは「マンガ喫茶」と「ネットカフェ」だろう。やはり、同じような個室があって、事情のある人たちがそこで寝泊まりしている。

日本では貧困層が増えているのに、ホームレスが減っているのは、実はここに理由があった。また、女性のホームレスもほとんど見ないのも、ここに答えがある。

2007年から2013年までの6年間でホームレスは64%も減少しているのだが、貧困層が減ったからホームレスが減ったのではない。

ホームレスに落ちるか落ちないかのギリギリのところで生活している人は、みんな「個室ビデオ店」「マンガ喫茶」と「ネットカフェ」と言った極狭空間に籠もるようになっていた。

こういった店も真夜中に泊まりに来る人間たちでビジネスをしている。

ナイトパックやステイパックという料金価格を用意していて、それを使うと7時間で1200円から2000円ほどで泊まれるようになっている。また、毛布貸し出し無料から、シャワーが無料で使えるコースもある。

日雇いの仕事をしながら、こういったところを転々としている若年層、あるいは中高年は、もう珍しい存在ではなくなっていて、それが貧困層の新しいライフスタイルにすらなっているとも言える。

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ホームレスに落ちない程度に生きる

「ホームレスに落ちると終わりだ」という意識は誰にでもある。どん底の中のどん底がホームレスである。だから、誰もがホームレスに落ちまいと、最後の部分で踏みとどまる。

その最後の部分が「個室ビデオ店」「マンガ喫茶」と「ネットカフェ」である。しかし、一泊1500円から2000円もするので、それも決して安くない料金だ。

その金すらも出せないほど切迫した人間はどうするのか。24時間開いているマクドナルドで100円のコーヒー一杯だけでイスに座って夜を過ごす。

しかし、その100円すらも出せない人間は、24時間開いているレンタルビデオ屋などで、人目に付かないところで「立って寝る」のである。

昼間に身体を休めるにはどうするのか。図書館に行って可能な限り寝る。あるいは公衆トイレの個室で可能な限り寝る。そういったギリギリのところで、かろうじてホームレスに落ちない程度に生きている。

日本の底辺では「ホームレスではないが、限りなくホームレスに近いギリギリの一線」で生きている人間が、若年層のみならず、中高年にまで拡大している。

日雇い労働など、いくら続けてもそれで満足に暮らせることは絶対にない。その日をしのぐことはできるかもしれないが、むしろ長く「その日暮らし」になってしまって、永遠に這い上がれない。

しかし、日本の底辺ではそういった「ホームレスに落ちる一歩手前のライフスタイル」が定着してしまっており、永遠のその日暮らしを続けている人間たちが増えているのも事実だ。

蓄えが不足したまま仕事を失うと、場合によっては誰もがこの救いのないライフスタイルの中に堕ちていく可能性がある。リストラや非正規雇用や低賃金化が加速している危険な時代なのだから、誰もが他人事ではない。(written by 鈴木傾城)

2008年10月1日、大阪府大阪市浪速区でひとりの男が「個室ビデオ店・キャッツなんば」を放火するという事件があった。15人が死亡して、10人が重軽傷を負った。犯人の小川和弘は2014年3月6日、死刑が確定している。

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